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『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者たち』感想。約21年ぶりのぶりぶりざえもん最高

『爆発!温泉わくわく大決戦』を最後に声優だった塩沢兼人さんが亡くなられた為、声ありでの出演がなかったぶりぶりざえもん。

そのぶりぶりざえもんが約21年ぶりにスクリーンに帰ってくる

 

僕は子供の頃に『ヘンダーランドの大冒険』とか『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』を観て育ってきた世代であり、声あり出演最後となった『爆発!温泉わくわく大決戦』辺りを最後にクレヨンしんちゃん映画を観なくなっていった(それは映画の内容というより、僕がクレヨンしんちゃんというコンテンツを観るという行為自体に恥ずかしさを感じるお年頃になってしまったのが原因)

 

それ故に僕の中ではクレヨンしんちゃん映画=ぶりぶりざえもんという図式も存在して、クレヨンしんちゃんを恥ずかしがる思春期を終え、DVDとかで今まで見過ごしてきたクレヨンしんちゃん映画を観ていると、ぶりぶりざえもんが出てこない事にちょっとした違和感、寂しさを感じてしまっていた。

 

個人的に一番泣ける映画は『オトナ帝国の逆襲』だけど、好きな映画は『ヘンダーランドの大冒険』と『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』ですね。「好き」という概念は子供の時に何度も何度も観た作品がどうしても勝ってしまう。

 

そして、2016年に声優を神谷浩史さんに変更して、ぶりぶりざえもんがテレビに帰ってきた。

 

それは本来ならば嬉しいと思う事なのだろうけども、私はどうしても永久に封印してた方が良かったのではという想いもそこにはあり、難しい。だって塩沢兼人さんはもういない。

 

観たいけど観たくない。

 

という想い。

テレビだとどうしても、少しでも観たくないと思ってしまうと簡単にチャンネルを変えたり、スマホを覗いたりして「観ない」事が安易に出来てしまう。

未だに子供時代の思い入れに引っ張られて、作品を観ないのは流石に良くないと思い、1度劇場に入ってしまえば「観ない」事が難しくなる映画で初新生ぶりぶりざえもんを迎えようと思い、この映画『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者たち』を観ることにした。

 

今回はその感想をネタバレありで書いていきたい。

 

f:id:Shachiku:20200912015038j:plain臼井儀人双葉社・シンエイ・テレビ朝日ADK 2020

 

監督京極尚彦

 

あらすじ

自由なラクガキをエネルギー源として空に浮かぶ王国、その名も「ラクガキングダム」。しかし、時代の流れか、近年地上でラクガキを目にすることも減り、王国はエネルギー不足により滅びようとしていた...。
ラクガキングダム」の王国軍は国の命運をかけて、地上への進撃を開始!!その下にはなんと、しんのすけたちが暮らす春日部が!!
描いたものが動き出す、王国の秘宝「ミラクルクレヨン」を与えられし勇者は...まさかの"ちょ~お気楽5歳児"野原しんのすけ!!果たしてしんのすけは、ほほ~いと描いたラクガキたちと世界をお助けできるのか!?

 

原案はたった6ページ

『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者たち』で特殊なのが

今作が劇場版第3作『雲黒斎の野望』から25年ぶりに原作コミックスを原案にしていることだろう。そのエピソードとはコミックス23巻に掲載されている外伝「ミラクル・マーカーしんのすけ」だ。

 

 

わずか6ページの物語の内容は自分が描いた家族の絵が気に入らなかったしんのすけは、さすらいの画家にどんな絵でも実体化する魔法のペン「ミラクル・マーカー」をプレゼントされる。

ぶりぶりざえもんやチョコビ、ウンコなど、しんのすけは次々と絵を実体化させていき、ついには大好きな「ななこおねいさん」を描く。しかし、画力が足りなかったために本物とは似ても似つかないニセななこが出現してしまった(映画と同じビジュアル)

 

f:id:Shachiku:20200912085106j:plain臼井儀人双葉社・シンエイ・テレビ朝日ADK 2020

 

この姿に驚いたしんのすけは思わず逃げ出してしまうが、トラックに轢かれそうになったところをぶりぶりざえもんとニセななこが身を挺して助けてくれる。しかし、トラックに潰されてしまった彼らは、そのまま消えてしまった…。

その献身的な行動に感動したしんのすけは、「自分の絵をもっと大事にしてやりな」という画家の言葉を思い出し、最初は気に入らず、捨てようとした家族の絵を持って帰宅するというお話(ちなみに映画のパンフレット買ったら丸々収録されていて読めるのでオススメ)

 

映画を観た人ならこの原案であんな壮大な話を描けるのって驚いてしまう。

ただ、どれだけ話のスケールは大きくなっても、「絵を描くこと」というテーマは原案から一貫していると思う。

 

ユウマくん

ラクガキと言われたら「教科書やノートの隅っこに書いたもの」「教科書にのっている偉人にヒゲを描く」などを思い浮かべるし、映画でも子供はタブレットやゲームばかりしてアナログとしてのラクガキをしなくなったという苦言がある。

本作は「子供はアナログで遊べ」という映画なのかなと思っていると、1人の子供が現れる。ユウマくんである。

f:id:Shachiku:20200912020614j:plain臼井儀人双葉社・シンエイ・テレビ朝日ADK 2020

彼はタブレットを持っていた。

そのタブレットのお陰で目的地まで順調に行けたり、SNS的情報網を利用して自衛隊の車両に乗ることが出来たり、デジタルが活躍する。

本作は決してアナログ崇高なのではない。

 

直接地面や紙にラクガキするアナログとしてのしんのすけ

タブレットを使いこなすデジタルとしてのユウマ

 

お互いをリスペクトし、協力しながら最後、春日部に大きな落書きをするシーンは圧巻である。

そして、「ラクガキングダム」の姫はユウマくんのやり取りの中で、タブレットの中(ネット)には多種多様なラクガキに溢れている事を知り、感動していた。

 

そうなんですよね。今も昔と変わらない、またはそれ以上にラクガキで溢れていて、愛されているんですね。それがアナログかデジタルかの違いなだけで。

冒頭に感じたその違和感を消してくれた終わり方も「絵を描くこと」というテーマに真摯で良かったと思う。

 

ラクガキングダム」は今後デジタルとも融合したハイブリットな社会になると思うと、ワクワクしてくる。

 

ラストシーン、タイトルの「ほぼ四人の勇者たち」

ユウマから見るとしんのすけ、ブリーフ、ニセななこ、ぶりぶりざえもんが勇者だが、

しんのすけから見ると、ユウマ、ブリーフ、ニセななこ、ぶりぶりざえもんが勇者に見える。複数の角度、お互いのリスペクトがみえる「ほぼ四人」という表現は良い。

 

ぶりぶりざえもん

約21年ぶりのぶりぶりざえもんはスクリーンで大暴れしている。

 

ぶりぶりざえもんはしんのすけのお絵かきから生まれた“救いのヒーロー”。

しかし、高額なお助け料を請求してくる割に「私は常に強い者の味方だ」と敵に寝返ってしまったり、すぐ逃げようとしたりする清々しいほどの卑怯者。

それでも“救いのヒーロー”は本当に困っている人がそこにいるなら手を差し伸べてくれる。悪態をつきながら。

僕がぶりぶりざえもんを好きなのはやはり彼がヒーローでありながら、しんのすけの友達という事なんだと思う。

 

「愛と/勇気だけが/友だちさ」で有名なアンパンマン

マーベル映画やDC映画を見てもヒーローに孤独はつきもの。

例え人を救っても、友達として隣にいてくれるヒーローは少ない。

でも、僕たちは日常の中で困難の中を救ってくれるヒーローよりも、困難の中で隣にいてくれる友達を求める事の方が多い。それこそが救いだと思う。

 

だからこそ、子供の頃に友達が少なかった僕はぶりぶりざえもんを好きになったのだと思う。

 

そして本作は落ちてくる城を春日部市民みんなのラクガキ、想いで描いた巨大化したぶりぶりざえもんが持ち上げるシーンは『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』を彷彿とさせるし、『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』ではしんのすけ1人のヒーローだったぶりぶりざえもんが皆のヒーローになったのも良かった。

正直あまりにも『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』オマージュし過ぎてクサいなと思う側面はあるけど、僕は泣いてしまいました。「やっちゃえばーやっちゃえばー」辺りから号泣です。やっぱりね、ぶりぶりざえもんなんですよ。

 

あと、大人も子供も関係なくラクガキするのも良かった。創造性に年齢は関係ないと教えてくれる。

 

細かな感想

  • 監修に自衛隊の名前があるほど、自衛隊周りの描写が細かくて凄い。『シンゴジラ』後の作品って感じだ。
  • しんのすけを勇者扱いして持ち上げて、春日部市を救えなさそうだと一転、批難してくる春日部市の大人クズ。絶対に春日部市には引っ越したくないという気持ちになる。
  • 周りの大人があんな露骨にしんのすけのことを「勇者だ」と褒めることは今まであんまり無かったと思うけど、しんのすけがニセななこを失って落ち込んでいる中、勇者だから救ってくれと懇願する大人たちを見ていると『チェンソーマン』の世界かなと思ってしまう。
  • というかあんな事があってしんのすけが日常戻るのは無理では(クレヨンしんちゃん映画にこのツッコミは野暮)
  • 勇者一行の旅のシーン好き。
  • ニセななこのしんのすけへの一途な想いが好きだし、旅の途中でもしんのすけへの気づかいが細かく、ますます好きになる。
  • それ故にしんのすけを守って消える所はその消え方含めてトラウマ。子供は泣きそう。
  • ブリーフが自己犠牲を提案した時は感動したけど、その直後にブリーフが思いっきり伸びるシーンは笑ってしまう。情緒がおかしくなる。
  • 確かに終盤までテンポは悪いかも。
  • 防衛大臣含めて、敵側のキャラは薄いと思う
  • そもそもウキウキカキカキ作戦とか言いながら、子供を寝かさずに24時間ラクガキさせるだけの作戦ってどうなんだ。まぁ優しそうな名前からドキツイ内容の作戦は実際にありそうだけど。色々無理がある。
  • 眠たい子供に「なぁに!!眠たいだと!!!眠気が吹き飛ぶように騒がしくしてやる!!!」という作戦もアホ。

細かい所はこんな感じかな。

 

僕自身はスクリーンでぶりぶりざえもんを観たのは20年ぶりぐらいだけど、神谷浩史さんの演技がうまいのか、演出が巧みなのか、大人になったからか、想像してたよりもスッと入ってきた。

 

再びぶりぶりざえもんの声を聞けて、あのクソみたいな性格を見る事が出来て良かった。これからはテレビでもぶりぶりざえもんを見れそうだ。

 

『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者たち』滅茶苦茶オススメなので是非観て欲しい。

 

最後に一言

 

刀のような千歳飴売って欲しい。舐めたい。

 


【アニメ映画レビュー】『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者たち』感想