「新生」
彼は絶望を味わった。
それまでのアルフィノは名家の坊っちゃんであり、本人も秀才。
自信家で青臭く高慢ちきな性格で、自分の理想論を信じて疑わず絶対的な正義感を持っていた。
自分1人の力でエオルゼアを救えると信じており、そのくせ現場では命令だけで戦闘はプレイヤー任せ、しかも敵倒した後にドヤ顔で現れる。
地味な手伝い作業は嫌いで逃げる。
それぞれの事情があるリムサ・ロミンサ、ウルダハ、グリダニアの三国に対してもイキリ散らかし、見下していた。
↑ガルーダ戦を前に突然指揮を取り始めるアルフィノくん。
顔が良いから調子乗ってる、でも顔が良いから許す!
そんなアルフィノは己の理想を叶えるため、各国と協力できるように暁とは別の組織「クリスタルブレイブ」の設立を思いつく。
ゆくゆくはエオルゼア各国をまとめ上げる組織として機能させる予定だったが、その組織を今まで見下していた「大人たち」に利用され、主人公達はお尋ね者になり、「暁」の仲間たちは行方不明、ウルダハの内政は崩壊、クリスタルブレイブは敵になるという最悪の自体になってしまう。
その時に彼は実感する。
自分の無力さを。
自分の愚かさを。
驕っていた自分を。
雪の家で打ちのめされて、今までの自分を反省するアルフィノ。
そこでオルシュファン卿が言う。
「アルフィノ殿……
あなたはこのまま、折れた「剣」になるおつもりか?
……自身には、もう何も残っていないと?」「いいや、あなたには、まだ仲間がいるではないか。
ともに歩むことができる、とびきりイイ仲間が!」
タタルも言う。
「暁」の灯は決して消えない
と。
仲間たちの𠮟咤激励を受け、アルフィノは気づく。
絶望するような事があっても、仲間がいるから希望を抱き前に進めるのだと。
私の好きな映画『バットマン ビギンズ』にこんな名言がある。
なぜ、人は落ちるのか?
這い上がるためだ。
失敗や挫折。圧倒的なまでの絶望。
身動きが取れないほどの漠然とした不安。
そういった暗い気持ちに支配されて、奈落の底に落ちたような気分になってもそこで終わりじゃない。そこからが始まりなのだと。
ここからアルフィノは変わり始める。
「仲間」
素直に己の未熟さを省みて、再び立ち上がったアルフィノは主人公と共に新天地イシュガルドへと身を寄せる事になる。
そこで彼はエスティニアンとイゼルに出会う。
竜騎士エスティニアンは歯に衣着せぬ物言いでアルフィノに対してもズバズバツッコミを入れていく。
アルフィノ「やはり、彼らの蛮神を討伐しなければなるまい。」
エスティニアン「 言うは易しだな、アルフィノ。お前がグナース族の蛮神と戦うというのなら別だが、蛮神討伐となれば、「光の戦士(プレイヤー)」に頼るほかあるまい?」
アルフィノ 「……か、返す言葉もない。私が蛮神討伐などと軽々しく言うのは、それこそ傲慢というものだ……」
今まで安全圏で指示だけして行動していた気になっていたアルフィノにとって衝撃だった。
イゼルは言う。
「アルフィノは、魔法の才がある。実戦で磨いていけば、いい魔道士になるだろう。」
それはアルフィノの背中を押す言葉だった。
エスティニアンとイゼル。
それはまるでアルフィノにとって兄と姉のような存在であり、彼らと主人公との4人旅を通して自分に足りないモノに気づき、そして今まで自分がどれほど仲間に頼っていたかを知る。
アルフィノは決して過去も現在も独りではないのだ。
アルフィノ
「エスティニアン殿の言葉で、自分の傲慢さを思い知らされた。
いつの間にか、君に頼ることが当たり前になっていたんだな・・・・・・。
冒険者、無事の帰りを待っているよ。」
「当たり前は当たり前ではない」そんな当たり前の事に気づく。
「労働」
上記でも書いたが名家の坊っちゃんだったアルフィノは地味な手伝い作業も嫌いで避けていた。
そんな彼だが、4人旅でまだまだ実力不足なのを指摘される。また、彼の得意技だった莫大な遺産のマネーや、知識も役に立たない。
そこでアルフィノは今の自分で出来る事を考え、薪拾い等の雑用に手を出し始める。
アルフィノ 「こ、これが薪拾い……!手がかじかんで仕方がないよ……」
エスティニアン「 アルフィノの奴、薪拾いをしたのは初めてなんだとよ。いったい、どんな坊ちゃん暮らしをしてきたんだか……。」
最初は薪拾いすらロクに出来なかったアルフィノだが、彼は成長する。
アルフィノ「戦いも多い旅だったからね。これを機に皆で休息を取るのも悪くはないさ……。焚き火でも起こして、身体を温めよう。
では、私が薪になるものを集めてくるよ。
なに心配しないでくれ。
これでも薪拾いのコツは、掴んだつもりだからね。」
薪拾いでこんなにドヤ感出せるのは中々いない。
更には
薪拾いなら任せてくれよ!
た、頼もしい。
「真理」
姉のように思っていたイゼルが亡くなる。
イゼルだけではない。
ミンフィリアや他にも大勢の人が死んだ。
アルフィノが目指すのはエオルゼアの救済。
しかし、そこには大量の屍の山が築かれていた。
マトーヤ婆から言われる。
どれだけ大層な理想を持っていようとも、手段が「戦い」であればそれは所詮「戦い」でしかない。大勢の人が死ぬ。
その現実に直視せず「エオルゼアの救済」というカモフラージュをしているだけなのだと。
真理を突きつけられ、アルフィノは何を選ぶのか。
「信念」
エスティニアンは宿敵「邪竜ニーズヘッグ」に身体を支配され、邪竜そのものになってしまった。
イシュガルド国家は自国を救うためエスティニアンごと「邪竜ニーズヘッグ」を倒す事を決めた。
でも、それでもアルフィノはそんな絶望的状況の中でも友を救う事を決めた。
それはかつて自分自身がその高慢さ故足元を見られ、絶望した日。
石の家で打ちのめされた時、オルシュファン卿の言葉で再び立ち上がる事が出来たアルフィノだからこそ選べた決断だった。
彼はオルシュファン卿のように「友を救う男」になるのだと。
オルシュファン卿は死んだ。
ただ、彼の意志を継ぐ者はここにもいたのだ。
希望があるなら諦めない。
彼はかつての自分ではない。なんども絶望を味わい、苦しみ、悩み。
それらが彼の糧となり、今がある。
何度でも這い上がるのだ。
それは4人旅最後の夜のキャンプでの会話。
アルフィノ :「温かいな……。それに、焚き火から立ち上る焔を見つめていると、
見知らぬ土地にありながらも、どこか安らぎを覚えるよ。」
エスティニアン :「この前までは、薪拾いさえ、
やったことがなかった坊ちゃんがよく言うぜ。」
アルフィノ 「 ハハハ、確かにそうだね。エスティニアン殿に教わるまで、
焚き火に適した薪の選び方すら知らなかった……。
シャーレアンの有力議員の息子として生まれ、
最年少で魔法大学への入学を許され、神童と持てはやされた。
知識では、並みの大人に負けはしないと傲っていたんだ。
自分がどれほど、無知で無力かも知らずにね。
結果、利用され、裏切られ、大切な仲間を……。」
イゼル :「そう、私たちは無知だわ。無知ゆえに、戦いの根源が何であったのかさえ知らず、
教えられるまま、命じられるまま、戦争に身を投じさえする。
私は、聖竜と出会い真実を知った。そして、無知を利用し、戦争を煽る教皇を倒そうと決意した。
自分が罪を犯すことで、融和をもたらせるならと……。」
アルフィノ :「無知であることを認め、常に学び、
他者に流されず、信念の道を己の足で歩む……。その難しさと大切さを、私はこの旅で思い知ったよ。」
エスティニアン :「それでいいのさ。アルフィノ、お前は16歳だったか……同じ年頃の俺なんて、
ただ、がむしゃらに槍を振り回すだけのガキだった。
それに比べりゃ、お前は十分に立派さ。俺だって、今になって無知を痛感している始末だからな。」
アルフィノはエスティニアンを救うため、信念の道を己の足で歩む。
「蒼天」
フレースヴェルグの「竜の眼」を手に入れ、パワーアップした冒険者は遂にニーズヘッグを追い詰める。
そんなニーズヘッグの中からエスティニアンの意識が目覚め、「俺がニーズヘッグを抑えている間に俺ごとニーズヘッグを殺せ」と言う。
しかし、エスティニアンを救うと決めたアルフィノと冒険者。その決意は固い。
ニーズヘッグの力の結晶たる「竜の眼」を引き剥がし、必死でエスティニアンを救おうとするアルフィノだが、「竜の眼」は硬く引っ付いており、引き抜けない。
その時、奇跡は起きる。
死んだハズのイゼルとオルシュファン卿が現れ、
アルフィノたちと共に「竜の眼」を引き抜く手伝いをしてくれる。
そして無事にエスティニアンを救う事が出来、それを見届けるようにイゼルとオルシュファン卿は消えていく…
もうね、ストーリーは王道でありながら、ニーズヘッグ死闘ぐらいから「FF14ってこんなに演出上手かったの!?」と驚くようなキレキレの映像と演出でイシュガルド編ラストにふさわしい盛り上がり方で最高でしたね。最高!!!!
とテンションが上がってしまったが、これにて『蒼天のイシュガルド』編は完結。
もう、「エンタープライズ、発進!!」といい所だけとっていくアルフィノはいない。地に足のついた彼だからこそ、出来ること、やらなければならないことがあるハズ。
新生から蒼天まで通して、ゲームとしての主人公はプレイヤー自身である冒険者だが、ストーリーの主人公はアルフィノだったのだと思う。彼の成長を描いた物語。
イシュガルドという大きな物語とともに、1人の人間の成長の物語でもあったのがよりストーリーに深みを感じられ、こんなにも評判の良い『蒼天のイシュガルド』は生まれたのだと思う。
アルフィノはもうどこにだって行ける。
イシュガルドの空には「蒼天」が広がっているのだから(これが言いたかっただけ)