最近の日本実写界、埋葬されている作品を無理やり蘇らせてはそのまま火葬になるのがブーム。
【公開日】 2021年10月22日 【監督】 清水康彦 【原案】 ヴィンチェンゾ・ナタリ『CUBE』
突然閉じ込められた男女6人。
エンジニアの後藤裕一(菅田将暉)、団体職員の甲斐麻子(杏)、
フリーターの越智真司(岡田将生)、中学生の宇野千陽(田代輝)、
整備士の井手寛(斎藤工)、会社役員の安東和正(吉田鋼太郎)。
年齢も性別も職業も、彼らには何の接点もつながりもない。理由もわからないまま、脱出を試みる彼らを、熱感知式レーザー、ワイヤースライサーや火炎噴射など、
殺人的なトラップが次々と襲う。仕掛けられた暗号を解明しなくては、そこから抜け出すことは絶対にできない。
体力と精神力の限界、極度の緊張と不安、そして徐々に表れていく人間の本性…
恐怖と不信感の中、終わりが見えない道のりを、それでも「生きる」ためにひたすら進んでいく。
果たして彼らは無事に脱出することができるのか?!(公式HPより)
邦画が面白くないのは予算がないから
よく聞くことだし、実際に一理あると思う。何事も金は大事。
そんな中、製作費$350,000(日本円で約5000万程度)という低予算映画『CUBE』を日本版で作り直すという事で否が応でもオリジナルと比べられるし、予算がないからという言い訳も出来ない。
これは真に邦画が試されていると言っても過言ではないだろう。
邦画界の威信を背負う形になってしまった日本版『CUBE 一度入ったら、最後』
まずサブタイトルの「一度入ったら、最後」のB級感がヤバくて心配になるが。
一言感想としましては
予算以外の邦画のダメな所詰め合わせパックになってると思う。
ネタバレありで詳しく書いていく。
人間ドラマと泣けるエピソード
本作はCUBEの設定を使った道徳映画である。監督自身も今の時代に通じるヒューマンドラマにしたかったと言っている。
主人公の菅田将暉演じる後藤が過去に起きたトラウマにスポットライトをあて、物語は進行していく。
事あるごとに後藤の回想シーン挟んでくるのは予想通りだが、問題は後藤のトラウマシーン上映会である。なにあれ。
パンフレット読むと「対峙した人間のトラウマを投影する」と書いてあり、謎の超技術である。
後藤の弟は父親によるDVが原因で自殺しようとし、後藤はそんな弟に手を差し伸べる事が出来ず、死なせてしまった過去があった。
後藤を慕っていた中学生の宇野くんは上映会でそれを知って、下の部屋に飛び降りようとするが、後藤は今度こそ手を差し伸べる事が出来て、命を救う事が出来た。無事にトラウマを乗り越える事が出来たという感動エピソード。今そんな事やってる場合かというツッコミは野暮。
そして大人恐怖症だった宇野くん。
CUBEの中でも「大人は汚い」をストレートに言ってくる汚い大人代表の吉田鋼太郎や自分の人生がうまくいかないのは自分のせいではなく世の中のせいにする(これも分かりやすくストレートにそのまま言葉で説明してくれる)岡田将生といった悪人を見ながらも、後藤という信じられる大人がいる事を知り、現実でも頑張る事を決意する。
このテーマとエピソードに触れる部分ではストーリーが完全に止まり、映画のテンポを悪くしているが、ヒューマンドラマなので仕方がない。菅田将暉、斎藤工、岡田将生のカッコイイ顔を見て我慢しよう。
取り敢えず「泣ける感」出そうとするの邦画あるある。
誰が生き残るのか分かる
オリジナルでは低予算なのもあり、無名俳優による"いつ誰が死んでもおかしくない"という緊張感に対し、本作では緊張感はない。なぜなら有名俳優だらけだし、何よりも子供がいるから。
子供同士ならまだしも、大人の中に混じった子供は中々死なないのがデスゲームモノの鉄板である。そもそも子供犠牲に菅田将暉が生き残ってしまったら菅田将暉のイメージダウンが物凄い事になるのでどうせ生き残りそうと思っていたらほぼノーダメージfinishである。そしてその理論は女性にも適用されたので杏さんもノーダメージfinishである。
大人の男達は今の役者レベル(人気)の順で死んでいく感じだ。
菅田将暉、杏、岡田将生、斎藤工、吉田鋼太郎という豪華出演者の中で誰が最初に犠牲になりCUBEの恐ろしさを伝える役目になるのかな。斎藤工が怪しいなと思っていたら無から生えてきた柄本時生。
サイコロステーキよろしく、心太突き棒で突かれた心太のように死んでしまう柄本時生。ボーボボオマージュである。本作一番のグロシーンは冒頭なので、グロシーンが嫌な人は冒頭だけなんとかしよう。
それにしてもR指定ではないのでレーティング的に仕方ないのかもしれないが、オリジナル版にあったグロさはほぼない。
まぁ僕も別にグロが好きではないので別にいいのだが、トラップの発動条件がマチマチで感情の高ぶりによって噴出される有毒ガスとか、一定時間の経過と共に発動する鉄格子とか、ご都合主義に見えてしまうトラップたち。
何よりも最後の人間同士の押し問答を待つだけ待って発動した岡田将生人間生け花のトラップとか「空気読みすぎだろ!!!」って誰もが思っただろう。
他にも
- カメラワークもアップばっかり
- メイクや衣装は最後まで綺麗なままだったね……
- コソコソ話してるけど、狭く静かなCUBEの中だから絶対に聞こえるよねってなる
- オリジナル版ではCUBEの設計者がいてヒントを与えてくれたけど、本作ではいないので唐突なCUBEの全体像のラクガキが出現して笑ってしまった。誰が書いたんだよ。バイオハザードの「ある研究員の手紙」的な奴である。
- 吉田鋼太郎の演技が1人だけ舞台芝居で滅茶苦茶浮いているのそろそろ誰か注意した方が良い。
- 星野源自体は好きだし、「Cube」自体も歌詞は怒りや怖さをよく表していて名曲だと思うけど、ポップ過ぎて映画に全然合ってない。もしかしたらデスゲームだと思って観た僕が悪くてヒューマンドラマ映画だと思って観たら合ってたと思うのかも。いや、残念ながら合ってないな……
- 影薄すぎて怪しいと思っていた杏の正体が最後の最後に発表されるが、滅茶苦茶どうでも良かったし、存在意義はなかったと思う。
- 個人的にはオリジナル版の光に包まれながら終わるエンディングが好きなので本作の菅田将暉が実は生きてました展開などは蛇足な気がする。
酷評になってしまったが、良い所もあって、それは岡田将生のサイコパス演技である。
好青年にみせかけてサイコパスを演じさせたら右に出るものがいない岡田将生だが、吉田鋼太郎の背後で深度深めな岡田将生の笑みのカットはゾクゾクとして良かった。もう僕は岡田将生を普通の好青年キャラで見る事が出来ないかもしれない。
最後に
唐沢寿明主演の『24 JAPAN』とか
『夏への扉』など
過去の海外名作を蘇らせるのが流行っているけど、イマイチ上手くいっていない印象。特に映像作品はオリジナルの名作と比べられて日本が勝てる訳がないので(失礼)中々ハードルが高いと思う。
それにしても酷評になってしまい、申し訳ない。
オリジナル版を観てない人で「それ言い過ぎ」と思う人は是非、オリジナル版を観てそしてこの映画を観て欲しい。素数やデカルト座標など話の展開はオリジナル版とほぼ一緒なのにここまで日本の味がする『CUBE 一度入ったら、最後』を堪能して欲しい。