社会の独房から

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Netflix映画『ドント・ルック・アップ』感想。日本沈没で観たかった奴。

世界の終わりを前にして、「どう救うか」ではなく「どう団結するか」が問題だと判明したコロナ渦以降の僕たち。

みんな大好き『アルマゲドン』の隕石モノや『インデペンデンス・デイ』の宇宙人襲来モノでは人類が一致団結し困難に立ち向かう。僕たちは信じていた。人は1つになれると。

しかし、それは間違いだった。

僕たちはコロナ禍を経て知った。人類はどんな時でも団結することはない。どんなに絶望的な状況でも国際問題や利権、政治関係によって、同じ方向を見ることなどないと。

誰しもが情報を発信する事が出来る世界では、人の弱さを助長し、それぞれだけに都合の良い「真実」の生成を加速している。社会に満ちる様々な「真実」(MGS2風)

真面目に訴えかける者たちを切り取り馬鹿にし、SNSで拡散される世界と、真実より政治思想により選別され差別されてしまう世界。

そんな今だからこそ、人類は団結などできない事実を滑稽に描いた作品が『ドント・ルック・アップ』だ。2時間半ぐらいある長い作品だが、人類による愚行と愚行による修羅場を迎えていくブラックコメディ映画。

 

地球と日本で規模は違うが、同じく「迫り来る命の危機」に対してどう対応するのかを描いたのがTBSの日曜劇場で放送していた小栗旬主演ドラマ『日本沈没』だろう。

この『日本沈没』は原作小説とは違い日本が沈没していく中どう行動していくのか?という話ではなく、予め日本が沈没する事が分かるのでどう対応するのかという話になっており、そんな話だと知らなかった視聴者からは「全然日本沈没しないやんw」と煽られたドラマでもある。

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https://www.netflix.com/search?q=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%B2%88%E6%B2%A1&jbv=81477445

 

 

今回はNetflix映画『ドント・ルック・アップ』の感想を『日本沈没』と比べながら書いていきたい。

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【監督・脚本】アダム・マッケイ

 

あらすじ

さえない天文学者ランドール・ミンディ教授(レオナルド・ディカプリオ)と教え子の大学院生ケイト(ジェニファー・ローレンス)は、あるとき地球衝突の恐れがある彗星の存在に気付く。二人はオーリアン大統領(メリル・ストリープ)とその息子であるジェイソン補佐官(ジョナ・ヒル)と対面したり、陽気な司会者ブリー(ケイト・ブランシェット)のテレビ番組に出演したりするなどして、迫りくる危機を世界中の人々に訴えようと奮闘する。しかし二人の熱意は空回りし、予期せぬ方向に進んでいく。

 

ドント・ルック・アップと日本沈没

「僕はずっと環境問題を扱う映画を求めてきた。でも気候変動のニュースと同様、人々はそんな映画は見たがらない。」

だからこそ環境問題を彗星に例えて本作を作ったアダム監督とディカプリオ。

作中では「シロクマと溶けていく氷山」の映像が少し流れるぐらいで環境問題に対する人類については言及しない。本編も基本的にはコメディなので人類の愚行に笑ったりするが、最後の救いのなさにゾッとする怖さが待っている。

このままでは現実でも取り返しのつかないことになるのでは!?と言葉ではなく展開で思い知らせてくれる。

 

それに対してTBSドラマ版『日本沈没』はストレートに、全部台詞で環境問題に切り込み、僕たちに発信してくる。

しかし、その切り込み方に無理がある。

本作を監修した地震学者の山岡耕春氏曰く

「そもそも日本が沈没することはあり得ないことなのですが、その上で日本沈没の原因を温暖化にしたいと言われた時は非常に困りました。気候変動と地震活動は基本的に関係がないというのが我々の常識なので、もっともらしい設定を作るためにはどうしたらいいのか、頭が痛かったですね

topics.tbs.co.jp

前提に無理があるのに「地球温暖化が原因」「地球温暖化をもっと、もーっと恐れた方がいい!人間はこの地球があるからこそ生きていられる」「(地球温暖化)止められるのは今しかないぞ!それができなければ間違いなく地球は終わる。そのカウントダウンはもう始まっている!」と全部セリフで説明してくる。最終的には全然日本沈没にしないのに地球温暖化が原因で新型コロナみたいなウイルスが突如世界で流行り出して主人公の妻を寝取った男性だけ殺して収束していく。
 

たぶんTBS的には環境問題と絡めてドラマ版日本沈没を「このまま地球温暖化を放置していいのか」という問いかけにしたかったのだろうけど、あまりにもストレートに説教してくるのに最後の最後まで全然日本沈没しないから、「グダグダ言ってないで早く沈没しろよ!!!」という想いにメッセージがかき消されてしまった。

 

ここまで同じメッセージ性でありながら全然違うと書いてきたが、実は『ドント・ルック・アップ』と『日本沈没』は似ている所も多い。

 

  • 機密情報を普通の居酒屋で話す。

半沢直樹』の時から「なんでそんな極秘話を実名バリバリに大衆居酒屋で話すんだ!?コンプラガバガバ過ぎない!?」と思っていたが、『日本沈没』もバリバリ機密情報を大衆居酒屋で話し、討論する。せめて個室では!?と思ってしまうが、この大衆居酒屋シーンが毎話のノルマのようにある。日本が沈没している尺より長いと思う。日本ドラマの悪い所出ているな~と思っていたが、『ドント・ルック・アップ』でもバーみたいな所で機密情報の会話をして、それを他の客に聞かれて暴動に発展するみたいな展開があった。もしかしたら居酒屋で機密情報会話は世界共通の常識なのかもしれない。今度、居酒屋に行ったら聞き耳をたててみようと思う。

 

  • 展開がゆっくりしている。

『ドント・ルック・アップ』も2時間半ぐらいの長い映画なので、中盤あたりのディカプリオが浮気する展開の地味な長さとかうーんとなる。しかし、そこは『日本沈没』も負けていない。全10話のドラマで最終話のラスト30分ぐらいまで日本が沈没し始めないのでかなりテンポは悪い。会議室の会話シーンとヒューマンドラマと裏切り者を見つけ半沢直樹する展開のローテーション。

 

  • 危機的状況に対して足を引っ張り合う人類

彗星が落ちるのに全く取り合わない大統領。協力した理由も己の支持率拡大の為。しかし、それもIT企業のスポンサーであるバッシュのCEOピーター(頼りないスティーブ・ジョブスのような奴)に邪魔されてしまう。

日本沈没』でも最初は日本沈没を信用しない連中ばかりなので調査の潜水艦でわざと倒れたり、数字をいじったり、地震学者を難癖つけて逮捕したり、滅茶苦茶である。しかし、『日本沈没』が『ドント・ルック・アップ』と違うのは最終的にうまくいくという点だ。

日本人の移民計画で中国の偉いさんが日本の副総理に昔、親切にされ協力をもらったから今度はこちらが協力する番だ!と移民を受け入れてくれる展開があるが、今の中国を見ているとそんな優しさで動いてくれる訳ないだろうと思ってしまう。

旧映画『日本沈没』では、約6000万人の日本人が助からなかったが、ドラマ版では何だかんだ移民計画がスムーズなのでほぼ助かる。そんな大量の移民を受け入れてくれる訳ないだろうと思ってしまうが、助かってしまう。そうはならんやろ→なっとるやろがいの展開がずっと続く感じ。

 

アメリカと日本の笑いの違い

オーリアン大統領のモチーフ元はトランプ大統領だろう。

彗星がようやく肉眼でその存在が確かめられるようになった頃、「空を見ろ!」と博士とケイトの扇動する側と「Don't Look Up/空を見るな」と静観し精査する(もしくは現実逃避する)側に分かれた人々が抗争を始め出す。ただ、博士側も集会で有名歌手によるライブが始まって何の為の集会なのか分からなくなったり、自分達には力がないから彗星対策は他国任せだったりするのもリアルだし、冷笑系というか「空を見る」でも「空を見るな」でもない中立的存在のこういう奴いるわ~感といった左右関係ない全てが風刺になっていて面白い。

それに対して『日本沈没』でそういった風刺ネタはほぼない。「地球温暖化がやばい!」といった熱いメッセージだけである。

 

ただ、日本ではそういう風刺ネタを求められていない節もある。

太田光の選挙特番での発言で政治家に対しての言動で「失礼だろ!」と炎上したり、ウーマンラッシュアワーのネタが毎回叩かれたり、俳優の佐藤浩市が総理大臣役を演じるのあたって、雑誌のインタビューで「ストレスに弱くて、すぐにお腹をくだしてしまうっていう設定にしてもらった」と言ったら総理揶揄と炎上したりする。そりゃ、スポンサーで成り立つテレビドラマでは厳しいなと思う。『全裸監督』でフェミ層から叩かれまくっているのに完全スルーしているネトフリにこちらも頑張ってもらうしかない。

 

 

そして『日本沈没』もみんなで見ると意外と『ドント・ルック・アップ』より笑えて楽しいので、そういうのを楽しめるコミュニティがある人は是非、見て欲しい。何か知らんが北海道と九州だけ残った『日本沈没』で爆笑した後だと、最終的にちゃんと彗星が落ちて人類がほぼ終わる『ドント・ルック・アップ』は真面目な作品だったなと感心するよ。

 

最後に

バッシュのCEOピーターが博士と大統領の2人にどうやって死ぬかを推測するシーンがある。

 

博士は推測が外れ孤独死ではなく、愛する家族や仲間たちと共に最期を迎える。しかし、大統領は推測が当たり「ブロンテロック」に食われて死んでしまう。

推測は推測でしかない。己の行動で未来は変える事が出来る。そんな前向きな終わり方をする。殆ど『日本沈没』と同じだ。『日本沈没』の副題は「希望のヒト」

それはレオナルド・ディカプリオジェニファー・ローレンス。そして我らが副総理の事だったのだろう。