何かあったら警察を呼ぼう
2021年に発足した、ホラージャンルに絞った短編作品の一般公募フィルムコンペティション日本ホラー映画大賞。その第1回大賞受賞作を新鋭・下津優太監督が長編映画化した『みなに幸あれ』が公開された。日本ホラー映画界の巨匠・清水崇が総合プロデュースを手がけ、『ミンナのウタ』の角田ルミが脚本を担当という逆に不安になる2人も関わっている。
本作は「誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている」というテーマを下敷きに、主人公が体験をする村ホラー。
下津監督が都市伝説のユーチューバーさんで「地球上感情保存の法則」を知ったのがアイディアのキッカケだったと語る。*1
「地球上感情保存の法則」とは簡単に言うと。地球上に住む幸せな人と不幸な人を足し合わせると、ゼロになるということ、幸せになる人の絶対数は決まっていてそれを僕たちは奪い合っているということだ。まぁ言いたいことは分かる。身近な例でいうと僕が有給とって鎌倉とか江ノ島旅行に行くと幸せだけど、人が少なくなった職場はしわ寄せで大変な思いをするのはあるあるだと思う。普通に不満を言われる。有給ぐらい気楽に取らせてくれ!!!!
そしてそれまで幸せに生きていた古川琴音さんが祖父母の家で幸せの裏側にあった真実を見てしまい、それ以降ひたすら「厭」な事が起こり続けるというあらすじ。
田舎特有の排他的雰囲気、祖父母のベセスダゲームのNPCみたいな挙動、日常の不穏さ、謎儀式。
それらすべてが古川琴音さんに降りかかり泣き叫び発狂していくのだが、「そうはならんやろ…そうはならんやろ!!!」の連続でもあり、「笑いと恐怖は紙一重」「緊張感は笑いのスパイス」とはよく言うが、これは観客を笑かしにきているだろ!!!というシーンも多くシュールなコントに見えてしまう。そういう意味では「誰も見たことのない新しいホラー映画」かもしれないが、純粋にホラーを楽しみに観ると「なんだコレは…」ってなりそうな質感である。
全体的にA24風だし、シャマランみあるけど、1シーン1シーンだけ切り取っていくとごっつええ感じのコントに見える。松本人志のシュール感ある。松本人志って書かずにあの人って書いた方が世相にあっている?というか日本人、ブリーフ1丁おじさん好き過ぎるだろ!!!!
公開している規模が少なくて満席になってることも多いけど、異様に重い雰囲気の劇場で「笑ってはいけない」を観客に仕掛けきているようにしか思えない。カップルで観に行って踊るブリーフ1丁おじさんで笑ってしまう彼氏にドン引く彼女とかいそう。いて欲しい。
また、祖父母の家で犯罪が行われていると分かる時に古川琴音さんが幼馴染の家に行くんだけども、いや、交番に行けよ!!!!ってなるし、交番がないなら110番しろよ!!!ってなる。
「お前が今すべきなのは幼馴染に会う事ではない!警察だ!(ギュッ)」と頭の中のK先生がうるさい。
分かるよ、警察に行ってもどうせ仕方ないの。でも、警察に行っても話を聞いてもらえなかった描写があるかどうかで全然違うというか。
他にも電車に乗ってこれる田舎だし、車もあるし「さっさと東京に帰ればいいのに…」と思ってしまう。最終的に実はあれがあの田舎だけじゃなくて、都会でも人間全てに関係しているオチとかだったらメタファーとして受け入れられたけど、因習村設定が逆に勿体無いなって感じだ。
あと何よりもこの世界の理をもっと早く教えといて!?結局なんで子どもの頃に教えといてくれなかったの!!??
最後に
現実とオーバーラップさせ全体的にメタファーが多いという意味でA24の『MEN/同じ顔の男たち』みたいなホラー映画だなって思う。だからこそこの映画を観て高齢化問題のメタファーだから「僕たちの物語だよな」って思う事や1つ1つのシーンを考察するのも楽しいんだろうけども、僕は鑑賞中の「なんだコレは…何を見せられているんだ…」から劇場を後にして「何を見せられたんだ…」という気持ちでじゅうぶん楽しめたのでこれでいいかなって感じ。現代社会の内包する問題がみえる、社会派ホラーと思うと物足りないけど、それを装ったコントだと思うと楽しめたかな。
Jホラーによくあるお涙頂戴な人間ドラマもなく厭な気持ちにだけなれるのは好きな感じ。お金払って厭な気持になりたい人にお勧め。
あと古川琴音さんとホラーの雰囲気ってあうよね。これからもオカルト俳優として活躍して欲しい。