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【ネタバレ】映画『アリスとテレスのまぼろし工場』感想と解説。

いやでもこの気持ち悪さで300館上映は無理があるってワーナーブラザース

 

監督・脚本を務めたのが『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』などの脚本で知られる岡田麿里。『さよならの朝に約束の花をかざろう』に続いて2本目の監督作である。制作は『チェンソーマン』『地獄楽』など人気原作を次々アニメ化させているMAPPA。

 

 

この映画の予告が気持ち悪いとSNSで話題になり、「親が子供に見せなくない映画2023」大賞候補になっているらしい。ソースは脳内。まぁでも内容も普通に気持ち悪いので変に内容隠して「青春友情青空初恋自転車黒髪白色向日葵麦茶」みたいな予告にして観客を騙すよりも真摯で好感の持てる宣伝である。敬遠する人も多いので宣伝として良いのかは知らんが…。

それはそれとして映画館の予告、ジャンプスケアが激しいホラー映画は観客の悲鳴が普通に聞こえてくるし心臓に悪い。『死霊館のシスター 呪いの秘密』、お前のことを言っているのだぞ。あと、今から観る映画の予告が上映前に流れたのが1番失笑してしまった思い出…。

 

脱線してしまったがここから『アリスとテレスのまぼろし工場』の話をタバレありで書いていく

 

 

あらすじ

製鉄所の爆発事故により出口を失い、時まで止まってしまった町で暮らす14歳の少年少女(中身は30歳以上)が野生の狼のような少女・五実―と出会い、世界の均衡が崩れていくという話。

 

本作の監督、脚本の岡田麿里氏は特有のドロドロした人間関係や感情表現での青春群像劇が有名。しかし、何一つ手に入れる事が出来ず、何もかも経験する事が出来ず、土手下にあるプランターをどかしたらワシャワシャ動き出す蟲のような学生時代を過ごしてきた僕にとってあまりにもステージの違う物語にどんな苦しい展開が起きようとも心のどこかで「良いなぁ」という想いが捨てきれず、ドロドロした人間模様にハマれない所があった。

本作の主要登場人物も制服を着ているけれども、時が止まっていていつか元に戻れるように、住人たちは変化を禁じられているという世界観なのでずっと学生をしているだけで中身はおっさん、おばさんなので「こんな世代でもピュアな恋愛出来るんだなぁ」という希望を感じてしまう。

 

本作は氷河期世代やコロナ渦で青春を過ごしてきた人には刺さりそうな「どこにも行けない。何者にもなれない、いつまでも今のまま」そんな閉塞感を反映している。オトナ帝国みたいに昭和初期が青春の人だったらその閉塞感に「家族の絆」で打破していくものだけども、氷河期世代やコロナ渦世代の人にとってまだ若かったり独身が多いので「家族の絆」ってイマイチピンと来ない。だからこそ「たとえ絶望的な世界であっても居場所なんて関係なく自由に”今”を生きる、または何故生きたいのかを自分自身に問いづづける」という落としどころは良いなと思う。

 

因みに年齢で言うと91年のある日製鉄所事故→その時に町全体にパラレルワールドが作られ、死んだ人は生き返り生きてる人はGANTZみたいにコピーされその世界で生活することになる。→05年に夏祭りで迷い込んだ五実→10年位監禁されて身体は中学生になる。
という時系列っぽいのであの空間に主人公達は30年近くも閉じ込められたということになる。小説を読むと日を数えていた生徒は気が狂って不登校になったらしい。そりゃ流石に気も狂う。

 

10年近く監禁されていた五実が最後は現実に帰れたのは良いが、ウエディングドレス着させられて言語も怪しい状態で母親と同じ名前の少女に育てられ父親と同じ名前の少年と仲良くなり神隠しから帰ってくるの、あまりにも事件性が強すぎてダメ。

そもそも年齢と身体の不均等に悩みそうなものだが、「愛されて育った」ので結構順調に成人になったらしい。愛って凄い。

あと、本作は岡田麿里度数200%で作ったらしいが、色々展開していってどうやって終わるのかなと思いきや、最終的に「列車を利用して五実を現実世界に送り返そう!」と分かりやすいゴールが誕生してからはアクション部分も増えてエンタメ度が一気に上がったので岡田麿里や製作陣はこれでも大衆向けを意識してるのが分かる。そういう意味でも新海誠における『君の名は。』みたいな立ち位置なのかもしれないが、同時に新海誠みたいな国民的にはなれないよなっていうのもよく分かる本作である。

 

 

タイトルの意味

『アリスとテレスのまぼろし工場』、まぼろし工場は分かるけど、アリスとテレスって何!?となる。

岡田麿里が10年ぐらい前には狼少年のような嘘つきな女の子と狼に育てられた野性的な女の子の話を小説として書いていた。それの仮タイトルが『狼少女のアリスとテレス』

タイトルの由来は「子供の頃に哲学者のアリストテレスという名前を、アリスとテレスという2人組の名前だと勘違いしていたこと」

しかし、その小説は完成までこぎ着けなかった。

それをアニメ映画として再び書き出したのが本作らしい。

 

"アリスとテレスという2人組の名前だと勘違いしていた"っていうのまさしく観客の僕らもそうで、アリスとテレス=アリストテレス、1人だったのである。

本作で「希望とは、目覚めている人間が見る夢である。」で引用された哲学者アリストテレスの名言を体現したような存在がまぼろしの世界で唯一の生存者、五実といえる。五実のまぼろし工場だと思うとスッキリ。

 

細かな所

  • 終盤の「赤ちゃんの泣き声が聞こえる」ってやつ、五実が列車で狭いトンネルを突き進むのが細い道=産道として表現して、五実、つまり沙希の第2の人生のスタートのメタファーっぽい。
  • 正宗父とおじさんの描き分けがあんまり出来てなくてどっちがどっちと少しの間、混乱した
  • 佐上みたいなキャラクターをねちっこくしつこく描くの岡田麿里っぽいなって思う
  • 野生状態もよかったけど、成長してからの久野美咲の演技好き
  • 「未来はあなたのものよ、でも正宗の心は私のもの」と五実に告げる上田麗奈の演技好き~~~~~~
  • 岡田麿里の作品あるあるなんだけども、SFファンタジー要素があくまで舞台装置でしかないので細かな所に引っかかる人や謎解きしたい人には向いてないと思う。雰囲気を味わおう。
  • 全体的に『ハローワールド』っぽい。個人的には『ハローワールド』の方が好きかな…

 

最後に

 

あまりヒットしないのだろうけど、そもそもオリジナルアニメ映画なんて9割ぐらいヒットしないので岡田麿里が悪いとかではないと思う。それより刺さる人は刺さって徐々に口コミが広がっていくと良いですね。せめて「知る人ぞ知る」名作になれば…。

 

最後に一言

睦実が保母さんになってセクハラ男児に向かって「てめぇやっぱオスかよ!」(CV上田麗奈)って切れて世の男児の性癖捻じ曲げて欲しい。