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ホラー映画『牛首村』感想と解説。血筋の物語にキムタクの血筋は説得力があり過ぎる

世界で最も恐ろしい話とは何かご存知だろうか?

それは「牛の首」という怪談だと言われている。

 

この「牛の首」の話は、そのあまりの恐ろしさから聞いた人が必ずショック死してしまうため、その話を聞いた人は現在誰も生存していないと言われており、内容については謎に包まれている。

故に誰も「牛の首」の詳細を知らない。話の内容ではなく、「一番怖い話である」という事自体がこの都市伝説の肝である。

「どんな話か分からないことこそ、一番の恐怖」

そんな「牛の首」を最初に流行らせたのは小松左京の短編小説『牛の首』だろう。しかし、小松左京はインタビューで『牛の首』の話自体は昔からあったと明言しており、なぜ、どこから「牛の首」が生まれたのか、そのルーツは不明なままである。

 

さらに本作の舞台を「幽霊が出る」とのウワサが絶えない富山県魚津市に実在する廃ホテル・坪野鉱泉をロケ地として撮影が行われた。ここは実際に肝試しに来た少女2人が失踪し、24年を経た後に遺体として見つかった事件も発生している。

牛の首×坪野鉱泉で描かれるのが本作取り上げる映画『牛首村』である。

ここからはネタバレありで書いていくよ。

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女子高生・奏音は、ある心霊動画に自分と同じ顔の女子が映っているのを見つける。そして、奏音は動画の真相を知るべく撮影地に向かう。そこで彼女は「牛首村」という村に伝わる忌まわしい風習や秘密を知り、不可解な事件に巻き込まれていく。

 

村シリーズも早いモノで3作目である。

映画のシリーズモノって3部作で完結しがちだし、清水監督自身も恐怖の村シリーズは「血筋の3部作」と一区切りついたような言い方をしている。これで完結するのかどうか知らないが、2月の恒例シリーズになって欲しい気持ち。

第一弾となった『犬鳴村』が14.1億円の大ヒットした時、僕も心霊スポットの映画シリーズは出来そうだなとは思っていたけれど、まさか「村縛り」するとは思わなかったので少し驚いたのを覚えている。清水監督は「村縛り」で制約と誓約することによって念能力の破壊力を高めているのかもしれない。

 

この「2chオカルト板からネタを引っ張ってきて、ラストはタイトルの村に行く」という必勝パターン。

『牛首村』の基本的な構成は前作の『樹海村』『犬鳴村』と同じであり、それ故に終盤の村への潜入パートに入ると、雑な展開の畳み掛けになりホラー感が薄まるという弱点も同じである。

また、前作の『樹海村』でも樹海といいつつ、中身は殆どコトリバコだったように、本作は「牛の首」も坪野鉱泉も本筋にはあまり関係なく、オリジナルの因習はこびる「牛首村」の話となっている。

 

本作で清水監督は

坪野鉱泉の舞台が最初に決まり、そして全くの別物ですが、「牛の首」という怪談を入れたいと僕が発案した。さらに『樹海村』の時に双子案があったが双子はそれだけで一本の映画になるから温めていた。石川県の旧牛首村に「双子の繭で有名な牛首繭というものがあって、普通、繭の中には蛹は一匹だけだが、その繭には2匹入っている、それと双子の話を合わせたりもしたが、複雑になるので切りはなした。それが坪野鉱泉×牛の首×双子というモチーフの始まりです。

 

と仰っており、都市伝説一本だけでは映画として内容が足りないので、何を付加していくか。「牛の首」だから石川県の旧牛首村、石川県の旧牛首村といえば双子の繭、だから双子を話の核にしよう!!!という連想ゲームのうまさが長年ホラー映画の第一線で活躍できる腕前だろう。

 

キムタクの血筋

前作の『樹海村』が登場人物全員派手に殺していく勢いのグロ方向に行ったが、本作では原点回帰ともいえるジメっとした発見の怖さがある。

呼びかけてないのに、勝手にiPhoneのSiriが「ヨリシロ トハ」と意味深な検索を繰り返す所とか

水たまりの反射で何度も落ちるアッキーナが見えたりとか

どこまで本人で、どこからが双子なのか分からなくなる鏡を使ったシークエンスの素晴らしさとか

特にジャパニーズホラーの醍醐味である「映り込む異物」

当たり前の顔して日常に混ざる異物成分に「ん?何あれ!あれ何だ?!」と気づく楽しさが冒頭から随所にあったりとか

 

ジメジメとした怖さが村シリーズで1番ある。

 

そして主演のKōki,さんの素晴らしさ。

f:id:Shachiku:20220218170121j:plain(C)2022「牛首村」製作委員会

 

眉間のシワとか所々父親のキムタクにしか見えない所があって、キムタクの血すげーなってなる。

映画初出演、初主演とは思えない堂々とした演技で、初主演がこの映画なの勿体無いレベル。

やっぱりホラー映画の主演って目ん玉大きい女の子が一番合うなとしみじみ思う目の開き方である。大きければ大きいほどいい。

キムタクの娘という話題性だけではなく牛首村という双子が多い村で生まれた忌み子を祖母に持つ「血筋の物語」である本作にキムタクの娘を起用するのは必然だろう。「血筋ってすげーな」の説得力が凄い。誰も血筋からは逃れられない。それを踏まえてどう生きるかだ。やってる事はジョジョである。

 

それにしてもKōki,さんは身長も高いので母親役の堀内敬子さんと並ぶと「この母親でこの娘は生まれねーよ」と思ってしまうが、父親役のココリコ田中が無駄に高身長なので、田中の血で身長の高さの説得力が生まれているのがうまい。恐らく身長だけでココリコ田中が採用されている。

 

また、本作のもう一人のMVPは松尾諭だろう。

バック駐車で当てたお詫び前提だろうが、初対面の若者カップルを心霊スポットまで乗せて行ってあげて、牛首トンネルでホラー話をして場を盛り上げ、その直後に怪奇現象あっても「こんな所にいてたまるか!俺は帰らしてもらう!」とならずに目的地までドライブし、どれだけかかるか分からない坪野鉱泉探索という名のデートを待ってあげて、屋上から尿をかけられても「なにやってんだよ!」程度で許し、待っている間に怪奇現象に出くわしても「こんな所にいてたまるか!俺は帰らしてもらう!」とならずに待ち続け、終わった後は自分の事務所で相談にものってアドバイスしてあげる。

し、親切過ぎないか……?最後はジメジメとした本作の中では唯一ド派手に死ぬという製作陣に対する優しさも完璧。長生きしてくれ……

 

解説

  • 双子

牛首村は双子が多い村だった。村では双子は「忌み子」、双子を生んだ女は「畜生母」と呼ばれていた。そして村で双子は「7つまでは神の子」として7歳まで生きることが出来たがそれを超えると人の子として扱うことになる。故に7歳を迎える前に双子の片方を牛の首をかぶせて村の守り神に返すしきたりがあった。子を連れ出す村人は牛の首を目印に子供を連れ出し、穴に落とすのだ。

元々は妙子が牛の首を被る予定だったが、奇子が好奇心か嫉妬かその牛の首を妙子からとり、被ってしまい、それを間違えた村人が奇子を穴に落としてしまう。奇子は死んだと思われていたが、後から落とされる子供たちを喰らい生き続けていた。そして呪いパワーを手に入れたのだ。妙子の娘、つまり主人公の母親も実は双子だったが片方は行方不明である。呪われた血筋。子供を産むな。

「村シリーズ」第三弾である本作、『犬鳴村』『樹海村』との繋がりもある。一つはアッキーナの登場。毎作冒頭でyoutubeをするのが恒例になっているが、本作でも健在。まさかの金髪である。今年もYouTuberとして登場し再び死亡。「村シリーズ」の恒例のキャラとして毎作呪い殺されて欲しい。
もう一つは犬鳴村の血を持つ男の子も登場。

また、清水監督繋がりで映画『ホムンクルス』から名越も一瞬登場。

『犬鳴村』でも思ったけど、最後に姿を現す怪異のデザインもう少し「怖さ」と「新鮮味」が欲しい。せっかくなら牛要素使えよ。コスプレモノで途中でコスプレ脱ぐようなガッカリ感がある。

  • 役者

Kōki,以外にもボートレースCMでお馴染みの芋生悠や、『仮面ライダーゼロワン』とは全然違う高橋文哉など若手役者陣が相変わらず良い。

  • エンドロール

本作で一番の見どころはスタッフロールで13組(名前が違うだけでもっといるかも)出てくる双子の役者の名前だろう。CGじゃなくて本物の双子揃えたの!?ってなる。パンフレット買うと確認できるのでオススメだ。

 

最後に

「村シリーズ」のお決りといえば、ハッピーエンドと思わせておいての実は解決してませんでした!!エンド。

本作はハッピーエンドで終わりそうでハラハラしていたのに「ハッピーエンドじゃありませ—ーーーーん」エンドになってくれてホッとした。ルーティンをこなすだけのワンパターンなテレビ時代劇感こそが本作の魅力である。

いつか犬妖怪三吉彩花VSコトリバコ山田杏奈VS牛首Kōki(芋生悠)VS多次元アッキーナの村アベンジャーズが見たいな~~~~~~~~