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映画『スペシャルアクターズ』感想。

まずは黙ってこの映像を観てほしい。


『スペシャルアクターズ』特報 10月18日(金)全国公開

上田慎一郎監督やっちまったな!と言いたくなるような映像であり、出来が不安になってしまう予告だ。

それでも、あの『カメ止め』の監督だし、そんな酷い出来はないだろうと思っていると、上田慎一郎監督も参加した『イソップの思うツボ』が好き嫌いは置いといて映画としての出来は結構酷かったので、更に本作が不安になってしまっていた。

やはり、所詮は一発屋。『カメ止め』は奇跡であり、人気というプレッシャーに押しつぶされ、もうあんな面白い作品は上田慎一郎監督からは生まれないんだろうなと寂しさと悲しさを感じながらガラガラの劇場でこの映画を観たのだが、

 

 

めっさおもろいやんけ!(手のひらクルー)

そんな映画である『スペシャルアクターズ』の感想を核心には触れず、ネタバレはなしで書いたつもりだが、鮮度が命なのでこのブログ読む前に先に映画を観たほうが絶対に良いよ。

スペシャルアクターズのテーマ

概要

あらすじ

売れない役者の和人は、約5年ぶりに疎遠になっていた弟・宏樹に再開する。兄と同じく役者として活動している宏樹は俳優事務所「スペシャルアクターズ」(スペアク)に所属しているといい、和人もその事務所に誘われる。そこは映画やドラマといった普通の役者の仕事の他に、演じることを使って依頼者の相談や悩み事を解決する何でも屋としても活動している特殊な事務所だった。

映画のサクラなどで仕事をこなしていた和人だったが、ある日、「カルト集団から旅館を守って欲しい」という依頼がスペアクに入る。カルト集団「ムスビル」が厄介そうな集団であることから綿密なシナリオを練り、スペアクの役者陣で演技練習を重ねることとなったが、あろうことか、和人が今回の依頼の中心メンバーに選ばれてしまう。しかし、和人には他人に隠していた特徴があったそれは、極度の緊張状態に陥ると気絶してしまうというものだった(それを防止する為に揉むとリラックスすると言われるおっぱいと感触と同じアイテムを常に持っている)

 

監督、脚本は上田慎一郎。「作家主義✕俳優発掘」を掲げ、2013年に始動した松竹ブロードキャスティングオリジナル映画プロジェクトの第七弾企画となる本作(プロジエクト名長過ぎるだろ)

1500通の応募の中から2日間のワークショップを経て、15人の役者を選び、そこから役者に合う脚本を上田慎一郎が作り上げた。

 

フィクションだからこそできるヒーロー

本作の主人公は俳優志望でありながら、緊張するとすぐ気絶してしまうという精神的病気を持っていて、その為か社交性の欠片もなく、弱気で、ネガティブで、貧乏で、女性に対して免疫がなく、仕事もままならない。

おそらく日本でなくゴッサムシティで生まれていたらジョーカーになってしまうな存在である。

そんな彼がジョーカーにならなかったのは要因は大きく分けて2つ。

1つがヒーロー映画

彼は今のこの令和の時代にビデオテープ(今の若い子にビデオテープって伝わらなさそう)で『レスキューマン』という超B級の映画を何度も何度も見るシーンがあり、彼自身のヒーロー願望を知る事ができる。

ただ、現実は非情で、彼がヒーローになる事なんてありえない。

しかし、俳優なら、芝居の中なら彼はヒーローにだってなれる。何だってできる。

この映画は負け組でどうしようもなかった青年が、気絶しそうになりながらも必死に藻掻いて、奮起と再起するまでを丁寧に丁寧に描いた優しいヒーロー誕生物語である。

 

現実が辛く、気絶しそうになりながらも生きている私達に「嘘を本気だと思い込ませるフィクション」の楽しさ、優しさを再確認させてくれる作品であり、『カメ止め』から通じる上田慎一郎監督の虚構への愛に溢れており、好きにならない訳がない。

 

そして主人公がジョーカーにならなかったもう1つの要因が弟

おそらく映画『ジョーカー』でアーサーは結局ジョーカーになってしまったけど、この弟がいたらジョーカーにならなかったと思うんですよ!ジョーカーに必要なものは弟!(このブロブ、ジョーカージョーカー煩いな)私もこんな弟が欲しかった。ちょっと最後の爪が甘いのも魅力的。この映画は最初から最後まで兄弟愛に溢れてるし、弟→兄への想いが重い!

余談だが、弟を演じている河野宏紀さん、パンフレットに人生に行き詰まったらブルーハーツ尾崎豊エミネムの「ルーズ・ユアセルフ」を必ず聞くって書いてあってフフってなってしまった。

 

ここで言いたかった事はジョーカーも緊張する時はおっぱい揉むようにしてたらジョーカーにならなかったんだよって事。銃を持つのではなくおっぱいを揉む。おっぱい揉んでる時の安心感は異常(私は心がアイドルなんでそんな破廉恥な実体験はないが)

 

どんでん返しがメインではない

『カメ止め』のブームから上田慎一郎監督は世間から良くも悪くも「どんでん返し」を期待される芸風になってしまったと思う。

一応、本作『スペシャルアクターズ』にも「どんでん返し」的なモノは存在するが、映画をよく観る人や、カンが鋭い人などは結構序盤から読めるオチでもあるので、鳥肌たつような革新的展開を期待する人は少しガッカリするかもしれない。

ただ、

ただである。

よくある「どんでん返し」に力を入れすぎて、驚き以外に鑑賞後何も心に残らないような作品ではない。

どちらかと言うと、先程も述べた「ヒーロー誕生」という骨格があって、「どんでん返し」はそれを支える筋肉のようなモノ。娯楽のための娯楽ではなく、テーマのための娯楽が観ていて個人的には気持ちが良いし、こういう映画も悪くないと思える。

 

最後に

パンフレットで上田慎一郎監督が『カメ止め』という大ヒットした後の作品で、プレッシャーが凄く、大スランプに陥り、「いつもぼんやり」と『カメ止め』の影に怯えていたと書いていた。

この映画を観れば分かるが、辛い状況である上田慎一郎監督だからこそ創る事が出来た本作。そして映画同様、監督自身がそんな影でもあった『カメ止め』を乗り越える事が出来た。おめでとう上田慎一郎監督(謎の上から目線)

 

映画自体も面白いが、映画の後ろにあるモノを色々想像するのも面白い。

監督だけではなく、15人の役者一人ひとりが「1人の売れない役者がプレッシャーに気絶しそうになりながら奮闘する話」である本作がただの虚構ではなく、現実としてシンクロし、彼らの物語になっているのだと思うと、他人事でありながら少し感動してしまう。

映画自体は完結したが、監督や役者の物語はここからである。

そんな彼らの物語をこれからも楽しみたいと願う。

 

最後に一言。

『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』などホラーに定評がある清瀬やえこさん、本作でも1人歩くホラーだったので、コワすぎファンは必見だぞ!