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劇場版『僕のヒーローアカデミア ワールド ヒーローズ ミッション』感想。デク×ロディをずっと見ていたい

 原作ではいよいよ最終章に突入し、過去最高に盛り上がっている『僕のヒーローアカデミア』(以下『ヒロアカ』)の劇場版3作目『僕のヒーローアカデミア ワールド ヒーローズ ミッション』

 

原作者・堀越耕平が「原作の最終決戦でやりたかった一つの可能性」と語る前作の『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』が本当に「これ映画でやっちゃっていいの!?」と驚くような展開だったのでハードルが上がるヒロアカ劇場版 

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堀越先生が前作のライジングは自分のやりたい物語だったので、今回は信頼できるアニメスタッフが主体となって制作したという『僕のヒーローアカデミア ワールド ヒーローズ ミッション』

 まず、軽く感想を言うと

「完成度はヒロアカ映画の中で過去最高」

原作では中々できなかったデクとオールマイトの共闘がありつつもジャンプ映画によくある停滞さが怠かった映画1作目

やりたい事もわかるし、ラストバトルの盛り上がりも最高だったけどそれはそれとして歪さもあった映画2作目

デクと映画オリジナルキャラ、ロディの関係性に絞った映画3作目は冒頭からエンディングまでずっと面白かった。

ここからはネタバレありで感想を書いていきたい。

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 原作 堀越耕平。 監督 長崎健司。 脚本 黒田洋平 アニメ製作 ボンズ

 

 ロディの魅力

f:id:Shachiku:20210806232603j:plain (C)2021「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE」製作委員会 (C)堀越耕平集英社

 

①ボイス

例えば『ハウルの動く城』のキムタクであったり、『風立ちぬ』の庵野さんだったりと芸能人や有名人が声優するとキャラの声を聞いても中の人の顔が頭の中で浮かんで邪魔になる時がよくあるのだが、ロディは吉沢亮ぽさがありつつも段々と吉沢亮のあの顔が消えてロディにしか聞こえなくなってくるのが凄い…あのイケメン顔が消えるんだぜ?

それにしても、吉沢亮はイケメンで演技もうまくて大河の主役に抜擢されるほどのカリスマ性と知名度を持ち、その上、声の演技もうまいって完璧超人過ぎる。何も出来ない筆者と比べると不公平過ぎませんか?凄い性癖持っていて欲しい。

 

②個性

自分で「役に立たなくて恥ずかしい」と言う個性は「一緒にいる相方の鳥「ピノ」(cv林原めぐみ)が自分の本当の気持ちを表情で出す」というモノ。

デクがそんなロディの個性を「嘘がつけない、素敵な個性だ」と言うのはデクっぽくて素敵だけど、なかなか実用性のない個性でもある。

 

この個性が判明するのが物語の終盤なので、今までのシーンでピノがどのような表情をしていたのか、もう一度頭から映画を見直したくなる嫌らしい個性でもある。

特に、中盤でロディがヒューマライズにケースを渡そうとした時、ピノがデクを起こそうとしたのは「罪悪感」だったり、デクを裏切りたくない気持ちと、楽な方へと行ってしまう自分自身を止めて欲しいと願う祈りだったりしてロディの性格がよくわかる。

 

③デクとの関係性

母を亡くし、父が失踪。しかも、父が過激なテロ行為と怪しい思想を持つ集団の一員だと判明し、友達と住む場所と自分の夢を失ったロディ。

職業としてのヒーローに懐疑的な彼がデクという本物にヒーローと出会い、生まれも育ちも違う中、打ち解けあう。

本作ではデクとロディの逃避行に長い尺をとっており、最初は自分のこと優先だったロディが「理想論」「綺麗事」を正面から実行していくデクの影響を受けて変わっていく所をじっくり見せてくれるので、そりゃロディに感情移入しちゃうよ、好きになるよ。ずるい。

 

最後の戦いで、ロディは肉体が動けなくなっても精神体であるピノは諦めずに動き続ける。プルス・ウルトラ。デクとの旅で得た総決算である。

そして、ロディの個性がフレクト戦での逆転の鍵になるんじゃなくて、あくまでも一般人の彼の勇気と覚悟がヒーローのデクに希望を与えたという点がかつてのオールマイトと緑谷少年の関係性を彷彿させていたのも良かった。

 

④空港での別れのシーン。

デクはヒーローとして誰かを抱えたり、お姫様抱っこする描写は多かったが、同い年くらいの子に対して、友情といった対等な関係でのハグは中々なかった。だからこそあの時、ヒーローデクではなく、緑谷出久としてロディにぎゅっとしたのは込み上げてくるのがあるし、ロディが強がって「2度来るな」と言っても、自分の本当の気持ちを表情で出すピノがずっと泣いているのはズルい。切実にスピンオフ作品作ってほしい。

 

「お前は諦めたんだ…!」

本作のメインヴィランは「個性終末論」を唱えるフレクトによって設立された思想団体「ヒューマライズ」

「科学的に立証されていない言説を妄信して暴走する人たち」というどうしても昨今のご時世と重ねて思うところがある集団である。ただ、「個性持ってて当たり前、無個性はマイノリティ」なヒロアカ社会において個性を持ってない人の肩身が狭くなり、無個性同士で集まるようになるのはリアリティあると思う。そしてその集まりとして宗教や思想グループが使われるのも現実味がある。

 

ボスのフレクト。彼の個性は反射。

劇場特典の冊子を読むと「光を反射しないようするアイマスクを埋め込んでいる。これがないと光を吸収しないから目が見えない」や「油膜ようなエネルギーがあるマント。これがないと服を着れない」といった想像以上に現実社会に生きるのに辛すぎる個性を持っているのがわかる。そりゃ個性を憎むのも理解できる。

しかし、ヒーローであるデクは彼の行いを認めない。

「限界を超えるのを諦めたんだ」

 

そもそもデクはフレクトの苦悩を知らないし、例え知っていたとしても彼の行いが許されるハズもない。何よりも個性因子誘発爆弾が破裂するタイムリミットが迫っていた。

 

ただ、デクのこの限度を知らないプルス・ウルトラ理論がデク自身を苦しめ、時には迷走させると原作の展開を知っていると思うところがある。

 

堀越先生が『ヒロアカ』を描くにあたって大事にしていることに以下のことを挙げている。

「クールにかっこよく」ではなくて「ドロドロになって頑張る」

「醜く地べたを這いつくばって頑張っている奴らって、かっこいい」はずっと意識している

 本作でデクが上半身を脱ぐシーンがあるが、体は本当に傷だらけである。そりゃデクのお母さん心配にもなるし、泣く気持ちもわかる。

 

人生にはプルス・ウルトラしないと駄目な瞬間があるのは理解できるが、たまには限界を超えずゆっくりして欲しいし、お風呂にも入ってほしいと筆者は願う。

 

あと、デクが反射個性のフレクトに勝つ方法が「個性の限界を超えるほど強い威力で何度も殴り続ける」というUSJでのオールマイトVS超再生脳無戦みたいで良かった。

ヴィランよ、こんな言葉を知っているか!?」とオールマイト

「僕たちは諦めない言葉を知っている!!」のデクの対比。

 

細かな好きポイント

  • 指名手配になったデクから「れいぞうこにいちごがはいってるよ どうぞ」というメール(縦読みするとメッセージになる暗号文)に対して、焦凍が「あいつ、俺たちにイチゴを……!?」と素直に受け取るの、それはもう天然とかのレベルじゃないよ。

  • 爆豪、こういうキャラってPCやネット関係に弱そうですぐ「何だコイツ」とPC爆発させそうなのに、やたらPC操作に詳しくて真面目なシーンなのに笑ってしまった。何でも出来る男だよ。
  • 「無個性や個性持ちは関係ない!」とデクが叫ぶシーンで、ミリオやエリちゃんからのサー登場は不意打ちだった。
  • エジプトNO1ヒーローのサラーム、何なんアイツ。登場時間は短いものの、インパクトの塊。
  • ボンズによるアニメーションは冒頭から動きまくりである。特にカメラもグルングルン回るからオレできゃ見逃しちゃうねの連続である。動体視力の限界を狙っているのか?そして最後はあまりにも早すぎて止まって見える北斗百裂拳。演出が一周してしまった感じがして笑ってしまう。
  • デクの黒鞭アクションは完全にスパイダーマン
  • 劇場特典の冊子にあった※堀越先生が著作権法上使用できないものを描きましたで黒塗りになっているコマがあるの滅茶苦茶笑った。後のセリフからスターウォーズかと推測できる。

最後に

ヒロアカは原作では最終章なので、劇場版もあと何作続くか不明である。『NARUTO』のように原作は終了した後も新展開で続くかもしれないが、少なくとも「学生のデク」が主人公の物語の映画はあと、出来ても1.2本かもしれない(最終章があと5年ぐらい続く可能性もあるし、アニメオリジナル要素が次々入り、アニメ版の最終回は10年後の可能性すらあるが)

 

終わりが見えてきている『ヒロアカ』

まだ、原作読んでない人はこのタイミングで参入するのも大いにアリだと思うよ!!!