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映画『ドクター・デスの遺産』感想。


綾野剛&北川景子が刑事コンビに!『ドクター・デスの遺産 -BLACK FILE-』予告編

f:id:Shachiku:20201113141951j:plain(C)2020「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」製作委員会

今どき「落ち着け!」って言いながら思いっきりビンタなんていうコテコテの演出していいの!!???

全力のビンタを見るなんて『ガキ使』の蝶野ビンタか北川景子ビンタぐらいなものである。

しかも、このビンタは原作にはない映画オリジナルであり、わざわざ映画予告で毎回ビンタを見せるほど、「このビンタは映画の見どころ!」と製作陣が自信満々なのホンマか!?って気持ちになってしまう。原作はもっと理知的で理性的で論理的なのだが。

今回そんな映画『ドクター・デスの遺産』を観たのでネタバレありで感想を言っていきたい。

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原作は 『さよならドビュッシー』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した中山七里原作小説で、刑事犬養隼人シリーズ第4作目「ドクター・デスの遺産」

監督は『半分の月がのぼる空』や『神様のカルテット』シリーズの深川栄洋

あらすじ

終末期の患者ばかりを襲う連続不審死事件が発生。捜査に乗り出す犬養(綾野剛)と高千穂(北川景子)は、依頼を受けて患者を安楽死させるドクター・デスと呼ばれる医者の存在に辿り着く。そんな中、重度の腎臓病に苦しんでいる犬養の一人娘・沙耶香が、ドクター・デスに安楽死の依頼をしてしまう――。
安楽死】という手口で、被害者を苦しませることなく、安らかな死を処方するドクター・デスの目的と正体とは?
犬養と高千穂はこの連続殺人犯にどう挑むのか!?驚きの結末が待つ、犯罪史に刻まれる禁断のクライム・サスペンス!

 安楽死

「人間には、生きる権利と、死ぬ権利が平等にあるのです」

ドクター・デスとは、積極的安楽死を推奨した病理学者のジャック・ケヴォーキアンの異名。チオペンタールの点滴によって患者を昏睡状態に陥らせた後、塩化カリウムの点滴で患者を心臓発作で死に至らしめる自殺装置を考案した。スイス・オランダ・ベルギーなど条件付きで安楽死を合法としている国は確かに存在するが、日本では認められておらず、東海大学安楽死事件でも、家族に求められて患者に塩化カリウム製剤を注射して死に至らしめた医者には懲役2年・執行猶予2年の有罪判決が下されている。

「私には私の生き方や死に方がある。誰にも口出しはできない」

「本人の明確な意思」の下での安楽死という選択。

日本では安楽死は認めらていないが、医療の発達するにつれて、その是々非々は常に議論されてきた。私も親が高齢になってきているのでそういう問題を気になる事はあるが、目を背けて先送りにしているのが実情だ。

誰もがその「死ぬ権利」について考えなければならない時代になってきている中で世に出たのが原作の『ドクター・デスの遺産』である。

 原作では決して安楽死を安易に否定するだけではなく、「家族を死なせたくないのも、苦しませたくないのも、根は同じ思いやり。アプローチが違うだけ」というセリフがあるように「安楽死について様々な方向から鋭角に描きつつ、それでも、それでも私は」という内容になっており、読みやすく、面白く、意外性もあってオススメ。

最後も「犯人は捕まえたが、罪をつかまえられなかった」というシコリがある終わり方になっている。

特に犯人は安楽死殺人という行いにプライドを持っていながら非常に強かで先の先を読む。自分の仕事の模倣をする人間が現れると捕まえるのに警察にも手を貸すし、警察側がおとり捜査をしても、本人が「安楽死」を望んてない人は決して殺さない。犬養たちとは別の正義を持ち。警察や日本国家といった枠組みとはまた別に動いていると思わせる所作が魅力だった。

 

では映画ではどうだろう。

安楽死」を題材にしておきながら、犯人は特にこれといった大きな大義や信念を掲げてるでもなく

  • 犬養の安っぽい挑発に乗ってしまう
  • 腎臓を患っている犬養の娘を言葉巧みに追い込みながら安楽死させようと自分から動いてしまう
  • それでも安楽死を否定した娘を拉致監禁してしまう
  • 追いかけてきた犬養を普通に殺そうとしてしまう
  • しかもその犬養を殺そうとする計画もやたら回りくどく、その癖、最後はごり押し
  • 人が死ぬときの顔を見るのが好きというありがちな「殺人快楽者のサイコパス」として描いている

といったあまりにも位の低い事に驚く。

 監督がパンフレットで

この映画をエンタテインメントとして成立させるためにも、犬養と娘の結びつきが必要だと考えた。安楽死については様々な意見が出てくると思うが映画なので、出来れば観客を主人公と心を合わせてクライマックスを迎えたい。その鍵を握るのが「娘を死なせたくない」という父の願いでした。

そのために途中から大幅に改変させたらしい。

原作は原作。

映画は映画。

それはそう。

ただ、原作の持ち味を捨ててまで力を入れたエンタメ要素が成功しているとも言い辛く。とても辛い感じになってしまった。

そもそも主人公である犬養がやたら吠えたり、物に当たる性格なので見ていて心を合わせられない。

「物に当たる」というのが本当に酷くて2時間ぐらいの映画で10回前後は物に当たっていましたね。しかも軽くじゃなくて思いっきり。いくら顔良くてもあんな父親嫌ですよ。

 

 

安楽死殺人はクソ」と言った犬養を絶望させるために犬養の娘を唆し、安楽死させようと動いたものの犬養の娘は「それでも私は生きたい」と思い返した事で、テーマ的には完全に犯人の負けなんだよね。あとはもう。敗戦処理でしかない。

 

そんな敗北者の犯人は娘を拉致監禁し、助けにきた犬養の首筋に隙を見てチオペンタールを注射し、弱った所を塩化カリウムを注射して殺そうとする計画なのだが、滅茶苦茶回りくどい。

ハンターハンター』での「オレでなきゃ見逃しちゃうね」ぐらい早いチオペンタール注射がもう凄いし、結局身体は微妙に動くから塩化カリウム注射は邪魔されてしまうし。なんだコレ。

 

最後、被害者が犯行に「殺してくれてありがとう」と言っている回想シーンがあるけど、信念なき犯行した後でそんなシーンを申し訳ない程度に差し込まれても。

結局、エンタメとしても微妙で原作にあった「安楽死の是々非々」は物凄く薄れてしまった。

 

演出など

本作はシークレットキャストが存在してそれがそのまま犯人なのだが、こういうミステリー系で大物俳優を使うとメタ的に犯人がわかってしまう弱点がある。

その対策なのか初登場シーンでは犯人は特殊な化粧しているせいか意外と誰か演じているか分からないようになっているのに、異様に長い立ち姿と意味深に長いやり取りとかあるせいで「こいつが犯人だろ!!!」ってなるのはどうなんだ。

少しでも観客へのサプライズとして犯人は秘密にしたい思惑と、大物だし犯人の出演シーンを長くしたいという思惑と、後々ここが伏線だったのか!スゲーと思われたい思惑が悪魔合体して「こいつが犯人だろ!!!」ってなってしまった。

原作では犯人の正体に僕は結構驚いたけど、映画はガバガバだったと思う。少なくとも犯人を当てる作品でなかった。

 

またOPとか劇伴の使い方が完全に『火曜サスペンス劇場』でしたね。

特に、最後の決戦の場所が波の打つ崖の近くというのもポイントが高い。

映画館じゃなくて、ブラウン管でこの作品を見ていたら大好きになっていたと思う。

 

細かな所

  • 半沢直樹』を見たところだったので、ホームレス姿の柄本明さんが完全に幹事長後って感じで似合っていて良かった。柄本明さんはホームレスが滅茶苦茶似合う(褒めてる)
  • 真犯人のナースコスプレからの馬乗りと乱闘は中々フェチ心があって良かった
  • ただ映画オリジナルの部分である最後の決戦は犯人IQ2しかなさそうな計画でマジで阿保。
  • 岡田健史君の出番と活躍が少なすぎ。
  • 綾野剛に思いっきりビンタする北川景子とか、泣きながら北川景子に腹パンする綾野剛とか圧倒的な暴力映画だった。
  • というか犬養(綾野剛)と高千穂(北川景子)の関係がバディ超えているような匂わせ描写が多いのなに!?

最後に

本作で一番オススメできないのは原作ファンだと思う。逆に原作を知らない人はそこそこ楽しめるかもしれないが、個人的には先に原作を読んで欲しいのが難しいところ。

原作を読んだけど、あんまり原作は好きではない人は意外と楽しめるかもしれない。