興行収入250億パワーの『君の名は。』に興行収入300億パワーの『千と千尋の神隠し』と興行収入250億パワーの『アナと雪の女王』のミュージカル要素、他にも人気作の要素をひたすら掛け合わせていったら1500億パワー!!!!最強!!!!爆誕!!!!!!という阿保の理論をそのまま実践したような映画。
ただその理論の下、生み出された本作はあらゆる人気作の要素が殺し合い反転し、プラスどころかマイナスになってしまった哀しき存在。
そんな感じなので、一体何を参考に本作を作ったのか気になってパンフレット読むと監督、脚本、プロデューサーを務める瀬名氏は
「いや、実は僕はあまり影響を受けないよう、ほとんど何も見てないようにしているんですよ。家にも机とソファーと観葉植物ぐらいしか置いてありません」
って書いてあって
ウッソだろお前wwwww
って気持ちになってしまった。少なくとも家の状況は嘘だろ。
『不思議の国のアリス』など童話を参考にはしたらしい。確かに全体的にアリスっぽいけども。
今回はそんなアニメ映画『君は彼方』の感想をネタバレありで書いていきたい。
企画・原作・監督・脚本・音響監督・プロデューサー - 瀬名快伸
アニメーション企画・音響制作 - CUCURI
宮益 澪 - 松本穂香
鬼司如 新 - 瀬戸利樹
織夏 - 土屋アンナ
菊ちゃん - 早見沙織
ギーモン - 山寺宏一、大谷育江
あらすじ
「だって・・・努力したからって、絶対報われるわけないじゃん。」
高校2年生の澪は学校の授業は適度に手を抜き、宿題もとりあえず後回し、本気で努力することが苦手な女の子。
幼馴染の新と親友の円佳と、放課後は池袋で遊んで、それなりに楽しく生きていた。「私、新のこと・・・気になってて」
そんなある日、円佳に新のことが好きだと告げられた澪は、自分も新の事が好きだったことに気づく。
でも、3人の関係が崩れることが怖くなり「応援する」と伝えてしまった。
どうしたら良いのか分からなくなった澪は、新にワザとよそよそしい態度を取ってしまい2人はケンカに。
すれ違いの中で、自分の気持ちから逃げてばかりだったことに気が付いた澪は、
新と向き合うことを決め、仲直りをしようと雨の中を新の元へ向かう途中、交通事故に遭ってしまう。
そこは、いつもと違ういつもの街――
澪が意識を取り戻し、目を開けると、そこには不思議な世界が。
海の上を走る電車、横を綺麗なクジラが泳いでいる・・・。
見たこともない場所。
電車が駅に到着し改札を出ると、今度は見慣れた池袋の街並みが広がっている!けど、どこか変。
不安になりながらも街を歩くと、澪は「この世界のガイドだ」と名乗るギーモンと出会う。
ギーモンから澪は<世の境>にいると説明され、望む世界に行けるという扉を開かせようとした、その時。「これ以上、ガイドの話を聞いたらだめ。戻りましょう!」
謎の女の子・菊ちゃんに引き留められた澪は<世の境>から本当に抜けられる方法は<忘れ物口>と呼ばれる場所に行き、
元の世界での大切な思い出の中にある“忘れ物”と、帰りたい強い“想い”を伝えることだと教えられる。
ギーモンと菊ちゃんと共に<忘れ物口>を探し出した澪だったが、何故か“大切な思い出”が分からない。
答えられず戸惑う澪を残し、係員は消えてしまった。「私、新に会いたい。どうしても伝えたいことがあるの!」
澪は新の元に戻るための唯一の手段、
“大切な忘れ物”を思い出で溢れた“誰もいない池袋”の街で辿ることとなる――
公式HPより
後半から滅茶苦茶目が滑るあらすじだな!!!
でも本編見ると更に目が滑るぞ。
概要
主人公である 澪が迷い込んでしまった「世の境」
ガイド役のギーモンによればそこは「現世の思い出を忘れてあの世に旅立ち場所」
(C)『君は彼方』製作委員会
そこでの冒険が主なのだが、そこに行くまでが地味に長い。
序盤は情緒が不安定過ぎて感情移入が出来ない澪の日常生活での痴情のもつれが滅茶苦茶スローテンポで描かれるため、出来の悪い日常系アニメなのかなと勘違いしてしまいそうになる。スライドショー的に切り替わる場面演出や、昭和時代の心霊番組に出てきそうな魂魄(これはこれで面白かったけれど)など、映像的に観ていて楽しくなるような作画でもないし、展開も憂鬱で観ていて辛い。
確かにこの日常生活で後半に使うあらゆる伏線を露骨に張ったり、澪の人間性や新との関係を描いたり大変なのはわかるけども。観客を少し置いていくぐらい展開が速かった『君の名は。』を見習った欲しかった。
そして突然終わる日常(字のごとく本当に突然)
「世の境」とは「分かりやすく旅立てるように澪の思い出をモチーフに出来ている」とギーモンが語るようにそこはまるで池袋。
「世の境」に長く滞在すると記憶が全てなくなってしまう。帰るためには「忘れ物口」でこの世の忘れ物と、帰りたいという気持ちを伝えれば「この世帰りの切符」を貰う事が出来る。
この「世の境」を通して 澪は自分の過去と、自分自身と向き合い、大事な人に大事な事を伝える「思いを伝える大切さ」を知る。
現世では過去の体験から「努力はしても無駄」「頑張るだけ辛い」と可能性を、未来を殺してきた澪。ある意味ずっと時間が止まっていた中、「世の境」を経験し、むしろ今までの自分こそが死んでいたと気づき、生きること、未来を選ぶ。
ただ、そのテーマへの描き方が上手くいっているとも言えず、現世に帰りたいという想いを強く持ちながら「この世帰りの切符」で電車に乗れば帰れるハズだが、澪は心の奥底では帰りたくないらしく、電車に乗っても帰れない。
「帰りたいのに心の奥底では帰りたくないので帰れない」
という展開を2.3回繰り返すが、観客からしたら「知らんがな」って気持ちになる。
その帰れない最大の原因である封印している記憶も最後どうやって解いたのか、そういう理由を描かず「エモさ」という力技で乗り切ろうとするからその「エモさ」に乗り切れないと展開についていけない。
というかあんなに電車推しだったのに最後は扉で現世に帰るのもどうなんだ。
(C)『君は彼方』製作委員会
思春期という大人になるための道。
その時期特有の葛藤や悩みを主人公が自己解決するというよくある物語なのだが、
本作が異質なのは澪が想いを寄せる鬼司如 新が霊能力者として強い家系の生まれであり、澪を救うため幽体離脱して「世の境」に関わってくることだろう。
しかし、幽体離脱しても「世の境」での活躍をギーモンや金魚に取られてしまい、あまり役に立たない。
その上、現実では何の説明もなく突然幽体離脱して死んでしまったから必死に織夏というお姉さんが生き返らせたのに「なんで生き返らせたんですか!!!」とキレるし、織夏が「頑張って生き返らせたんだ、お礼の一言でもあっても良いんじゃないか」と正論を言っても
「織夏さん、病院まで連れて行って下さい(澪がいるので)」とお礼も言わず言ってきて
「自分の足で行けや!!!!」
タクシー使えタクシー
と僕は思ってしまった。
(C)『君は彼方』製作委員会
↑織夏、神秘的な見た目をしているが役割はアッシーである。
この 新 を演じる瀬戸利樹さん。途中までは全然違和感なかったのだが、
最後の最後に
海辺で倒れている澪を抱き、泣きながら今までの澪との思いでを振り返るシーンがあるのだが、その振り返り方が「今までにあった 新と澪の会話のやり取りを新1人で完璧に再現して言っていく」という謎のやり方である。
滅茶苦茶泣いて叫んでるし、壊れたテープレコーダーみたいになった新。そこに瀬戸利樹さんの不安定な演技が加わって凄い迷シーンになっていると思う。僕は爆笑した。感動した人がいたらすいません。
人気作が混じっていく
大筋だけ見ればシンプルで分かりやすいが本作を魔境たらしめるのが、過去の人気作をごちゃ混ぜした無駄な脂肪だろう。
元々短編として考えていた話を「長編にしたらどうか」と提案を貰い、脚本を書き直した結果が本作らしいが、短編がみたい。
まず予告編を見てもらったら
その『君の名は。』具合に驚く。
確かに『君の名は。』の大ヒット以後、『君の名は。』の影響を受けたアニメ映画は大量に生みだされた(同じく影響を受けていた『HELLO WORLD』プロデューサーの武井さんが『君の名は。』以後、東宝社内で求められる企画が変わり、それまでに脚本家の野崎まど先生と進めていたオリジナル企画が没になったと生々しく語るほどである)
本作は食いしん坊なので『君の名は。』だけでなく、
- 『千と千尋の神隠し』のカオナシのようなモンスターになる敵
- 『千と千尋の神隠し』のような海列車
- 『千と千尋の神隠し』『天気の子』のようなバレエメカニック展開
- 『千と千尋の神隠し』の「ここにはお父さんもお母さんもいないもん」的ラストの展開
- 『ペンギン・ハイウェイ』の空飛ぶペンギン
- 下手くそな『シックス・センス』的展開
- 『アナと雪の女王』やディズニーアニメによくある「急に歌うよ~」的ミュージカル要素(ここはまじで必見である。僕は映画館で爆笑に耐えるのに必死だった)
- 幸福の科学が関わってそうな宗教感。エンドロールで脚本・大川咲也加副理事長の名前を探してしまった。
等々である。
これらの要素が雑に下手くそに本編に交わってくるので滅茶苦茶目が滑る。
「焼肉チーズカツカレーラーメン焼きそば飯」という馬鹿みたいな料理を食べてみた結果、別々に食べた方が美味しいなと気づくようなものである。
真実
澪が序盤で交通事故にあってしまうものの、その後も元気なまま普通に通学していて「これギャグ」なのか?と思っていたら、終盤で実はその事故で意識不明の重体になっていた事が判明する。個人的にはギャグ描写だと思っていたので澪が「世の境」に行った理由が的確に説明されて驚いたが、その真実を知った時の澪の「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」と驚き、拒絶するシーンが集中線が見えるぐらい凄い。省エネ作画と松本穂香の怪演が混ざって奇跡のシーンだと思う。
映画を観てない人に分かりやすく説明すると芸人のサンシャイン池崎さんの「イエェェェーイ!!」というテンションで「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」である。
想像して欲しい。物語も終盤、打ち明かされる真実に絶望する主人公。そんなクソ真面目なシーンでいきなりサンシャイン池崎さんの「イエェェェーイ!!」が挟まれ、それに対して何も反応がないまま展開していくのだ。なんだコレってなる。必見だ。
最後に
これからのアニメ映画は『鬼滅の刃』に影響を受けた作品が増えてくるのだろう。こういう『君の名は。』アフターの作品をこれからどれだけ楽しめるか分からないが、集大成的な作品を観る事が出来て僕は満足した。
省エネな作画に怪演する役者陣。頭に入ってこないストーリーと感情移入出来ないキャラクター達、『進研ゼミ』漫画の主人公になった気分になる「ここ見た事ある」展開。
普通ならボロクソに叩かれる要素てんこ盛りなのにここまで笑えるならそれはもう一周回って勝利。僕に勝った傑作アニメ映画である。
個人的には2020年の映画で一番笑った作品だったので、是非まだ観てない人は劇場で観て欲しいし、例え微妙だったとしても僕は責任は負いません。
追記)監督のインタビュー動画見てたら、この映画を作るのに2億ほど借金したらしい。
今の所、興行収入ヤバそうなので、もし興味が出た人は是非。