これは儚い妄想
僕は社畜。しがない社畜。
その日は、どうかしてたんだと思う。
年下の上司に怒られ、同僚からは失笑され、家に帰っても慰めてくれる人なんて存在しない。
ああ、だから───魔が差したのだろう。生まれて初めてのスリをしてしまった。
背広でツーブロックのいかにもイケている社会人から小さな鍵を盗んでしまったのだ。
警察に捕まるかもしれない緊張と潰されそうになる罪悪感。汗が止まらない。
僕はとにかくその場から去ろうと早足になる。
───その刹那、後ろから肩をポンポンと叩かれる。
振り向くと───そこには誰もいない。なんだったんだろと顔を戻すと
目の前にサンブラスをした西洋の外国人が立っていた。そのサングラス越しからでも分かるその整った顔立ちと、真っ白な歯。
「あ、あなたは……」たじろく僕。
彼はサングラスを外し、翠色の瞳で僕を見つめたと思うと、そっと耳元で囁く。
「話は後だ───君は命を狙われている」
その声はまるで───森川 智之。
第二章
彼───イーサン・ハントの話ではこうだ。
どうやら僕が盗んでしまった鍵は全人類を脅かす新兵器を起動させるための装置だったらしい。そんな危険兵器とは無関係な人間なので返そうとするが、どうやら僕の指紋が認識され、解除するまでその新兵器を起動できるのは世界で僕だけらしい。
唖然としていると、そこに武装した集団が襲い掛かってくる。
イーサンに庇ってもらいながらなんとかその場から脱出すると───黄色い可愛らしいフィアット500がそこにあった。
イーサンが運転席に座ろうとするが、銃撃にあってしまい、対処している内になんやかんやでなんと僕が運転席に!!!
普段は若葉マークつけての運転しかしたことない僕は「むりむりむりむり」って断ろうとするけれども、敵からの銃撃が止まらず、イーサンの「君がやるんだ!シートベルトしてハンドル握ってアクセルペダル踏むんだ!」の言葉と共に「どうにかなれ───!!!」とアクセルペダル全力で踏む僕。全力で目の前の自転車を吹き飛ばす。
「ごめん───!!!」知らない自転車の持ち主に謝りながら車を走らせる。
そして、金髪のかっけー女が舌なめずりしながらゴツい輸送車で襲い掛かってきたり、パトカーに追われたりしながらゴダゴダカーチェイスしていく。運転に不慣れな僕だったが、イーサンの的確な指示の元で何とか物損以外の被害はない状況で逃げ切ることに成功する───。
第三章
イーサンの仲間らしいベンジー・ダンとルーサー・スティッケルの協力の元、僕と新兵器のリンク解除に成功する。ようやく自由になれたことに一安心する僕だったが、イーサンは告げる。
「君には3つの選択肢がある」そう言って、指を3本立てる 「1つはこのまま外に出て警察に捕まることだ。しかし、君は窃盗という罪を犯している。日本の警察に捕まったら死刑だろう。2つ目は敵組織に捕まること。これも間違いなく死ぬ」
僕は息を吞む。
「3つ目は君もIMF(Impossible Mission Force:不可能作戦実行班)のエージェントになることだ」
「ぼ……僕なんかがあなたたちの仲間に……?」そんなことそれこそ不可能だ。僕はただの社畜なんだから。
「君はこのままでは死ぬ。今の僕は君の事を必ず守れるとは言い切れない。ただ、これだけは断言できる」翠色の瞳でじっと僕を見つける。「───仲間になれば、僕自信の命より、君が大事になる」
僕は今までの人生で、───間違いなく、こんなにも人から大事だと、仲間だと言われたことなんて初めてだった。
本当だったら「そんな事信用できるか!僕1人でも帰らせてもらう!!」と言って出て行ったことだろう。でも、この時の僕は彼を───イーサン・ハントを信じたくなってしまった。何よりもこんなクソッタレな社畜として生きていくよりも、IMFのメンバーとして生きていく、そんな人生を掴み取りたくなった。どんな苦難が待ち受けていようとも、イーサン・ハントが傍にいてくれるならば───その苦難ごと抱きして生きていける気がしたから───
「僕、なります!IMF(Impossible Mission Force)のメンバーになります。いえ、IMF(I めちゃくちゃ Forever loveトム・クルーズ)になります!!!
トゥルーーー♪ジャージャージャー、ジャッジャ、ジャージャージャー、ジャッジャッ
ダン ダン ダン ダン ダン ダン ダン ダン
ダン ダン ダン ダン ダン ダン ダン
ダダダダダダダダ
ダン ダン ダン ダン
ダダダダダダ
ダン ダン
ダダ
PART TWOに続く!!!
最後に
本作で新しく登場した「鍵とUSBをスっただけなのに」滅茶苦茶巻き込まれるのが面白すぎるグレースというキャラクター像が僕が日々妄想するキャラクターみたいでどストライクだった。僕のような自己肯定力が低いオタクは妄想する時ですらトム・クルーズになって会社を襲うテロリストを倒すことなんてしない。テロリストになって嫌いな上司を襲うか、トム・クルーズに救われるヒロインになるかだ。そういう意味では本作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は僕の妄想を形にしてくれたようで凄い映画だった。ずっと僕の妄想のようなキャラクターがトム・クルーズと共に活躍していた。是非、君もこの映画を観てミッション:インポッシブルの夢小説に出てきそうなランキング上位にいるグレースを目撃して、妄想を膨らませてくれ。