社会の独房から

映画やゲーム、漫画など。

人生初の合コンに行って盛大に失敗した話

「先輩、合コンセッティングしたんで」

 

あるお昼時間、松屋でキムカル丼を頬張っている僕に後輩が言う。

それは完全に寝耳に水、青天の霹靂に藪から棒だった。

僕が普段から「出会い欲しいわ~」とか「彼女欲しい~~」みたいな会話してたなら、分かる。でも、そのような趣旨の話をしたことがない。慌てて「えっ、なんでなんで」と問うたら、どうやら30歳を超えても女っ気のない僕を見かねた上司がセッティングをその後輩に頼んだらしい。

 

余計なお世話~~~~~~~~と内心で毒づく。

 

この後輩は陰キャ男子が大半をしめる弊社では珍しい陽キャの体育会系で、恵比寿で相席した女の子グループと仲良くなり、合コンのセッティングをしたという。

この後輩も悪気があったとかそういう事ではなく、上司からの指示にプレッシャーがあっただろうし、上司は上司で、ただただ僕のことが心配だったのだろう。

僕の気持ちを無視しただけで。

 

断ろうと思ったけれども、その前の会話で合コンの日は何の用事もないと言ってしまった後だったので、適当な理由が思いつかず、「あ~~わかった」と言ってしまう。僕のバカ。

 

その日の夜、ベッドの中でそういえば仕事の話以外で女性と会話するのがそもそも10年ぶりぐらいなのに気づいて震える。

 

 

準備

合コンに着ていく服がない。ユニクロか無印良品しかない。それを後輩に言うと「それはないっすね~~」と言ってくるので、買物に付き合ってもらう。もう大人なんだし、例え行くのが嫌でも行くことが決まった限りは最低限の相手への礼儀、身だしなみって奴が必要である。ただ、オタクグッズなら万越えしてても普通に買うのに、自分の服装になると途端に躊躇してしまう。ただの布だぜぇ!?

STUDIOUSに連れて行ってもらい、合計8万ぐらいで全体をコーデする。秋という一番中途半端な季節の服装なので着れる期間が短いのが残念。

 

 

合コン当日

合コン開始の3時間前に後輩と集合し、本番に緊張しないよう少し飲むこと。

選んだ店は焼肉屋。完全にチョイスミスである。香水もつけてきたのに焼肉の臭いで上書きされる。そしてそんなに酒強くないのに緊張のためビール3杯も飲んで肉も結構食べて、満足度が凄い。このまま出来れば電車に乗って帰りたい。

 

18時。合コンする店に着く。

席に案内されると女性陣は既に座っている。2対2。対決のゴングが鳴る。

 

僕は ついてゆけるだろうか 陽キャ世界のスピードに。否、ついていけなかった。

 

行く前に調べた情報によると「合コンでは女性陣は基本受け身なので、男性陣から会話していきましょう、会話のキャッチボールを楽しみましょう」と書いてあったが、あれは嘘である。女性陣の凄いテンションで凄いテンポで会話が進んでいく。

緩いキャッチボールをするのかなと思って社会人野球に参加したら常に150キロの魔球が飛び交うメジャーリーグに来てしまった感覚。

 

関東の人って関西に比べてノリが硬いと聞いていたが、そんなこと全然ない。完全にノリツッコミすら修得していて、あらゆる言葉のチョイスにユーモアのセンスが問われて、失敗すると「今のは滑ったよね」とか「レベル低くない?」とか言われる。恐ろしい。

合コンってこんなハイレベルな場だったのか…こんなことを平然にやってのける陽キャってそりゃコミュニケーションお化けだし、モテるわけだぁと納得してしまう。

 

僕は会話する時、少し考えてから言葉を発する癖があるので完全にノリについていけない。僕が言葉を挟む隙間もなく弾丸で会話が盛り上がっていく。愛想笑いしかできない。後輩も気を使ってちょいちょい話を振ってくれるが、場が盛り上がるようなコトを言おうとして考えてしまってテンポを壊してしまう。僕が何か言おうとするたびに「間」が発生するの、僕がただ悪いんだけもただただ緊張してしまう。

そして何よりも緊張と場の雰囲気に飲まれてしまい、ただでさえ終わっている滑舌が更に終わってしまっており、自分でも何を言っているのか分からない状態。本当に申し訳ない状態。

 

そこの居酒屋は大画面のテレビを見れるのが売りなのだが、女の子達は男子バレーのファンということで、丁度やっていた日本対スロベニアの試合を一緒に応援することに。バレーの知識はほぼなく、リアルのバレーの試合見るなんて初めてである。ただ、圧倒的テンポの会話に疲れてしまったので、テレビ実況は有難いなと思ってしまう。

 

試合が始まると女の子たちは僕が想像してた以上の男子バレーオタクだったらしくて、Twitterでよく見る感じで「藍様~~~」「推し~~~」「顔イケメン過ぎる!!!」とか選手の名前を大声で発狂しながら応援する。Twitterでよく見るオタクのノリって現実でも本当にやるんだ…!!って変な感動がある。

点数を入れられると発狂し、点数を入れると発狂する。1セット目の逆転劇なんて雄叫びすら聞こえた。僕はバレー実況で何を言ったらいいのか分からず何かあるたびに「流れ変わったな」とつぶやいた。

 

あまりにも大きな声で応援しているから他の席に座っているお客さんも「なんだなんだ」とテレビを見だして一緒に応援するというパブリックビューイング会場になってしまう。隣の席に座っていたご夫婦と「バレーの試合ですか」「そうなんです」「私の子供もバレーをやっていまして~~」とそこからオススメの株の銘柄まで発展した謎の会話も発生してしまう。なんなら合コンした相手よりこの夫婦の方がよく喋った気すらある。

 

2セット目ぐらいになると隣に座っていた女の子がテンション上がると僕を殴るという奇行を始めたのだが、止める手段がなくただ殴られる。女の子に触れられてイヤな男子はいないとよく言うが、殴られると普通に痛いので嫌だ。何よりも酒にあまり強くないのに会話に参加できないのを誤魔化すために酒をたらふく飲んだので体を揺らされると気持ち悪くなってくる。うっ…。しかし、ここでトイレで席を立つと「あの人さっきからノリ悪くな~~い?」「ハズレだよね」「ごめんねあんな人呼んで」みたいな悪口タイムが発生することを恐れてトイレに行くことも出来ない。

 

2セット目も終わり3セット目。ここでストレートに勝てばパリオリンピック出場決定するらしい。居酒屋は盛りに盛り上がり、ババァが1人でなぜかソーラン節を踊っている。

バレー。ちゃんと見たのは初めてだが、面白い。何で合コンに参加してバレーの面白さに気づくのかが不思議だが、こういう自分の広げ方も嫌いではない。選手もイケメン揃いでそりゃ人気も出るよな…と考えながらも僕の体調の悪さは限界に来ている。

 

もう、この女の子達と会うこともないだろうし、悪口大会になってもいいやとトイレに行こうとするが、先客がトイレに向かうのを見てしまう。ここのトイレは1つしかない個室。出るのを待つしかない。 

勢いづいた日本は順調に点数を稼いでいき、そして運命の25点目。最後はスロベニアのミスによって日本は勝利した。今日1で熱狂する居酒屋。女の子も「うおぉぉぉぉ!!やった!!!!!」と言いながら盛大に僕の背中をたたき

 

盛大に吐く僕。

 

歓声が悲鳴に変わる瞬間。

 

 

合コンを終えて

僕は滅茶苦茶謝りながら店員さんを呼んで一緒に処理をする。本当の本当に申し訳ございません。幸いなことに他の人の服などは汚さずに済んだ。女の子達にも謝りながら、罪悪感から僕が全部会計をする。後から後輩が「今日は色々すいませんでした」と謝りながらお金を折半してくれて「優しい…」となった。

 

帰り道、アルコールの影響で頭痛が酷い中、1人夜道を歩く。

自動販売機で缶コーヒーを買って公園のベンチ座り、夜空を見上げる。雲の隙間から覗くお月さまが綺麗だ。

誰かと一緒にみるお月さんはとても綺麗かもしれない、でも1人で見るお月さんも特別だ。だから、僕はこれからも1人でお月さんを見上げるんだろうなぁとしみじみ思いながらまた、吐いた。