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ホラー映画『犬鳴村』 感想。序盤の出来の良さは犬女の舞が全てを台無しにする。

「この先、日本国憲法つうじません」

福岡県の山間部「犬鳴峠」には、もう使われなくなった旧道と廃トンネルがある。かつて「旧犬鳴トンネル」のそばに、不気味な看板があるとローカル怪談が流れた。 

その不穏な文言を無視して奥に踏み入れば、いまだ山中に人目を避けて暮らす「犬鳴村」の住人たちに襲われるという…

 

この場所にまつわる怪談話や心霊話は、日本の怪談カルチャーにおいても有名で、旧犬鳴トンネルはいまだに「日本最恐の心霊スポット」と呼ばれ、恐れられている。

そんな舞台を『呪怨』シリーズでお馴染みの清水崇が監督し制作された。

最近の清水崇は『こどもつかい』などギャグ寄りのホラー映画やカルト的人気がある実写映画『魔女の宅急便』の監督をするなど、「面白いけども…」みたいな作品が多く、不安だったが、本作は途中までホラー映画として本当によく出てきていて、後半もギャグだけどホラーギャグとして面白いという満足度の高いモノになっている。

今回はそんな『犬鳴村』をネタバレありで感想かいていく。

犬鳴村 (オリジナルサウンドトラック)

 怪異のロジック

緊張感あるホラー映画には「怪異のロジック」がある程度必要だと思っていて、

例えば『リンク』であれば「ビデオを見たら1週間(7日)後に死ぬ」というルールがあり、そのルールの中で、助かるために怪異になった原因を探ったり、怪異と殴り合うのが楽しいのだ。

 

ただ、最後の最後で今まで信じてきたルールがぶっ壊され、逃げ場なしで終わるのも味があっていい。『リンク』であれば、「井戸に落ちた貞子を見つけると助かる」と思っていたが、本当は「呪いのビデオをダビングして他人に見せないといけない」とわかるあのラストは忘れられない。

 

しかし、それは最後の最後だから許される行為であって、本編中は人間も怪異もルールを厳格にして殴り合って欲しい気持ちはある。

そこらへんのルールがアヤフヤ過ぎて全く怖くなかったのが去年公開された『貞子』


逆に怪異のロジックが厳格過ぎて思わず唸ってしまったのが乙一監督の『シライサン』



個人的に黒乙一らしいホラー感たっぷりの『シライサン』はオススメだ。

では本作では怪異のロジックはどうなっているのだろう。

  1. 午前2時に公衆電話からなるベルに出てしまうと過去の犬鳴村にタイムリープする
  2. 意図的だろうが偶々だろうが、犬鳴トンネルに足を踏み入れると呪われる(主人公の兄である森田悠馬の友達はトンネルに入らなかったのに関わらず呪われて死んだため、近くにいくだけでもダメなのかもしれない。ただ、それなら悠馬を捜索しに来た警察官なども大量に呪われているハズだが、話題になっていない。死んだ悠馬の友達に比べて警察官はトンネルに近づいたのが遅いため、後日談の前後で死んでいるのかもしれない。または公権力には弱い呪いなのかもしれない)
  3. 犬鳴村の血を引くものと犬鳴村に関係があった森田家や山野辺家などは足を踏み入れただけでは死なない。
  4. 犬鳴村の血を引くものは霊感が強く、「犬化」する可能性がある
  5. 犬鳴村に恨まれている森田家や山野辺家は例えトンネルに近づかなくても呪い殺される可能性がある。

といった感じである。まぁ複雑過ぎるし、アヤフヤにも見える。ここらへんは微妙というのが正直なところだ。

 

一応説明しておくと最後の少年も犬鳴村の末裔であり、「おともだちによろしく」というのは同じ犬鳴村の子孫通し仲良くという意味だ。

ただまぁ犬化したところで、あんまり害があるようには本編では思えなかったので、イマイチ緊張が生まれない終わり方だなと思う。

 

緊張と緩和

恐怖と笑いは紙一重だと言われている。

なぜ対極に見える両者は紙一重なのか。

これは意外性を両者とも使用しているからだと思っている。

普通ならこう言うハズ、行動するハズという一般的な予想を裏切ることにより恐怖や笑いが生まれるからだ。

そして緊張と緩和。

ホラーでも「そこを開けると幽霊が出てきそうなシーンで開けても幽霊が出てこず、安心したところに背後に幽霊がいる」という緊張と緩和の使い方が一般化しているし、お笑いでも「二人が段々と怒り始め、怒りが頂点に達した緊張状態で、いきなりお互いにキスをする」というように緊張と緩和が使われている。

そして本作である。

序盤は本当にホラーとしてうまく緊張感があり、犬鳴トンネルから戻ってきた悠馬の彼女である明菜が尿失禁しながら歩くというある種の性癖を誘いそうな展開。

そのまま明菜は行方不明になり、必死に明菜を探す悠馬は電話をかけ、繋がったことで一瞬の安心感を与えながらの目の前で明菜の落下死である。緊張と緩和。

特に2回目の明菜の落下シーン演出が凄い。

一見、洋画ホラーにありがちな「驚き」でビビらせる演出も出来たのに、観客は遠くに明菜が何度も鉄塔から落下しているのがボンヤリ見えているが、主人公の三吉彩花演じる森田奏は気づかず運転している。

そして、いざ鉄塔の真下を通る時は車の中なので上が見えないから、急にドーンと明菜が落ちてくる。この演出はジワジワの恐怖とドーンの恐怖が入り乱れ、令和最大の恐怖演出だと言って過言ではない。発明である。

 

それにしてもこの明菜という女の子はいくらトイレが我慢出来ないからって、幽霊が出ると噂がある廃墟のトイレを借りる勇気が凄い。怖さと汚さをものともしない鋼の精神力は見習いたい。

 

この緊張と緩和が序盤から中盤まで良いのだが、後半バランスがおかしくなる。

高島礼子さん演じる森田綾乃が犬化し、高島礼子さんの「女優魂」溢れる犬演技は本作のMVPだし、是非アカデミー助演女優賞をあげて欲しいが、それはそれとしてホラー映画という笑ってはいけない緊張感あふれる劇場の中、日本を代表する大女優である高島礼子さんの一ミリも手を抜かない全力の犬の演技というのは畏怖の念を抱きつつ、笑ってしまう。反則である。

 

また、幽霊たちの雑なCG処理も段々面白くなってくる。もうちょっと何とか出来なかったのか。

そして一番の問題のシーンは犬鳴村から脱出する時の犬女である。

f:id:Shachiku:20210203231127j:plain(C)2020「犬鳴村」製作委員会

 

主人子達が逃亡するのに、犬女が追いかけてくるのだが、ここで最初に犬女の走るスピードを観客に見せてくれたら「こりゃ逃げれないわ」という絶望感があるのに、そんなシーンは一切ない。犬女は踊っているし、主人子達は見ているだけ。ダンスショーか?

しかも、この踊りのシーンがやたら尺をとっており、犬女が更なる変化をしそうでせず、ただ踊っているだけなので観客はじれったく感じてしまう。

そもそもこの犬女があんまり見た目にインパクトも怖さもないため、魅力が感じられず、早く変化しろよと思っているうちに結局変化することなく終わる。

しかも、力強いのかと思いきや、意外と男二人で抑えきれるという微妙な力で、恐らくなかやまきんに君なら一人で完勝できると思う。

本編はシリアスなのに最後の最後にギャグ映画になる。これも緊張と緩和である。

あと、帽子のお兄さん、ライフが4つぐらいあったよね。

 

最後に

犬鳴村の設定は重たい。

村を潰し、ダムを建造するため、「この先、日本国憲法つうじません」という通り、村人にやりたい放題する。女性は男どものおもちゃにされるし、犬に獣姦される。森田奏の祖先となる赤ちゃんだが、帽子の男は「俺の子だ」と言ったが、真実は分からない。

そういう目を背けたくなる真実に蓋をし、目をそらし、自分とは無関係だと思い込む。

それが人間である。

しかし、自分たちがいくら目を背けても、その恐怖や不安、真実は自分の近くにいつも潜んでいる。

 

だから、いつか覚悟を決めないといけない日は突然やってくるのだ。

最後に一言。

 

ラストの三吉彩花さんの口の拭き方が汚くて、ゾクゾクしたよね

 

 

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